熱唱 迫力イリュージョン 森重達裕氏(読売新聞文化部)読売新聞(夕刊)2021年6月29日掲載
劇団四季が威信をかけて臨むディズニーミュージカル最新作。コロナ禍で開幕が約1年遅れ、24日にロングラン公演の初日を迎えた。現在は最前列を除きチケットは販売されており、年内はほぼ完売状態という。
雪や氷を操る魔力を持った王女エルサ(岡本瑞恵・三井莉穂ら複数キャスト)と、その妹で活発なアナ(三平果歩=写真左=・町島智子ら同)の絆を描いたファンタジー。少女時代にエルサはあやまって妹に魔法をかけてしまい、自らの力に思い悩む。時は流れてエルサは女王となり、アナは姉の戴冠式に訪れた他国の王子ハンス(杉浦洸=同右=・塚田拓也ら同)と恋に落ちる。結婚の許しを得ようとしたアナに強く反対したエルサは、その弾みで氷の魔法を大勢の前で放ってしまう。
舞台化に際し、大ヒットしたアニメ映画から設定が変わった点も多く、見比べるのも楽しい。ミュージカルらしくダンスシーンが盛りだくさんで、1幕でアナとハンスが踊る場面は互いを完全に信頼していないとできないであろうアクロバチックな振りが付いていた。
きらめく氷や雪を表現した美術、プロジェクションマッピング映像、照明の動きが寸分の狂いもなく俳優の歌や芝居に同期する。極めつきは1幕最後にエルサが感情を解き放って熱唱する「ありのままで」。思わず体がのけぞるほど迫力あるイリュージョンの連続に、客席から感嘆の声が漏れた。
アンサンブルによる一糸乱れぬラインダンスなど緊張感をほぐす軽快な場面もあり、2時間余りがあっという間に過ぎる。ストーリー、スピード、スペクタクルの「3S」がそろった舞台には歌舞伎の「引き抜き」のように衣装が一瞬で変わったり、雪だるま・オラフのパペットを俳優が文楽人形遣いのように巧みに操ったりと、日本の伝統芸能を想起させる技も見られた。

映画の訳詞も手がけた高橋知伽江による違和感のない日本語台本・訳詞を、母音の響きを意識した四季の俳優たちが自然かつ明瞭に発声。セリフも歌詞もよく耳に届いた。思えば四季の創立者、浅利慶太は日本人が西洋のミュージカルに挑む時に生じる壁や矛盾と向き合い、「東西文化の融合地点」を模索してきた。70年近い劇団史。今作はその到達点になりそうな予感がする。