劇団四季の『バケモノの子』に期待

青空も嵐も辻村深月

劇団四季が「バケモノの子」を舞台化する──そのニュースを聞いて、胸が弾んだ。
きっと多くの人たちが、「大人も子どもも夢中になれる新しい冒険活劇の誕生」に期待を寄せているだろうけれど、原作ファンである私は、『バケモノの子』により魅了されるのは、ひょっとしたら私たち大人の方になるかもな、と勝手に思っている。
この物語の主人公・蓮は、親と別れ、渋天街と呼ばれるバケモノたちの暮らす異界へと迷い込む。そこでは、彼らを束ねる宗師の跡目争いの真っ只中。蓮はひょんなことから、跡目を狙う一人である熊徹という大男の弟子になる。行き場のない蓮は、気が合わないと感じながらも、熊徹に必死に食らいつく。──一方、最初から力を持つ熊徹は、これまで家族や弟子を持たなかったから、蓮に何をどう教えればいいのかわからない。
二人の稽古の日々を通じて、私たちは気づく。師匠であるは

つじむらみづき: 小説家。1980年生まれ。2004年「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞してデビュー。「ツナグ」で吉川英治文学新人賞を、「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞。「かがみの孤城」が2018年本屋大賞第1位に。著書に、「凍りのくじら」「東京會舘とわたし」「ハケンアニメ! 」「琥珀の夏」「闇祓」ほか多数。
撮影・土佐麻理子

ずの熊徹こそが、蓮から、その何倍も多くの感情や強さ、ひいては弱さまでもを獲得していくということを。慈しみや気遣い、心配。近くなればなっただけ、今度はまた苛立ち、怒りも悲しみも寂しさも、自分よりずっと小さな蓮から、大きな熊徹が学んでいく。
子どもは成長する時、大人の支えがいる。身近な大人が子どもにとっての世界との最初の窓口になることは間違いない。だけど、大人もまた、自分より小さなものとの出会いを通じて、新しい世界と出会うのだ。そして、互いにとって、そんな存在がいることがどれだけ幸せか。物語はそこを描く。劇団四季の舞台で新しく出会う蓮と熊徹から、私たちが見る世界はどんなものになるだろう。
映画「バケモノの子」では、青空を背景に多くの場面が描かれるが、この物語は、その裏にある大きな嵐を扱う作品でもある。劇団四季は、数々の「嵐」を演じてきた劇団だ。文字通りの嵐の場面はもちろん、誰かの心に燃える激しい哀しみ、戸惑い、喪失、怒り──そこからの再生。さまざまな心の嵐を描いてきた。その劇団四季がこの作品のクライマックスをどう描くのか、ミュージカルに生まれ変わるにあたってどんな歌がそれを彩るのか──考えるだけでわくわくしてくる。
私はこの作品の持つ大きなテーマの一つに、「継承」があると思っている。長い歴史を誇る劇団四季が描く「継承」の形がどんなものになるのか。
キャスト、スタッフの皆さん。大いに期待しています!

(「ラ・アルプ」2021年11月号掲載)

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パワーあふれるミュージカルを期待!佐藤弘道

細田守監督には、僕がレギュラー出演している情報番組(中京テレビ「ぐっと」)にご登場いただいたことがあります。穏やかでやさしいオーラをもった、気さくな方で、お会いしてますますファンになりました。
監督の作品はひととおり観ています。最初は誰が監督かを意識せずに観たのですが、その独特な世界観にすぐに引き込まれました。最新作の「竜とそばかすの姫」をはじめ、日本の豊かな自然が描かれているところも素敵ですよね。
「バケモノの子」には僕が学生の頃から親しんでいる渋谷という街が象徴的に登場し、親近感を抱きました。渋谷の小さな路地のなかに、別世界への入り口があるという設定にもわくわくします。
その『バケモノの子』を、劇団四季がミュージカル化すると聞いた時の最初の印象は「え、マジか!」(笑)。四季のミュージカルは何度か拝見させていただいていますが、訴えてくるパワーがすごい。いつも心が揺さぶられます。その四季が、あの映画の世界観を、音楽を絡めながらど

さとうひろみち:日本体育大学体育学部卒業。1993年よりNHK Eテレ「おかあさんといっしょ」第10代体操のお兄さんを12年間務める。2002年「有限会社エスアールシーカンパニー」を設立。15年に弘前大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。同大学医学部学部長講師。朝日大学客員教授、大垣女子短期大学客員教授、日本体育大学非常勤講師も務める。

うやって芝居仕立てにするのか──。まったく想像がつきません。さまざまなバモノたちが住む渋天街の雰囲気をどう表現するのでしょう?蓮(九太)の成長や戦いのシーンをどう描くかにも興味があります。僕はミュージカルで殺陣を担当したこともありますが、ひとつ乱れると終わってしまうし、見せようと思うと遅くなってしまって大変。スピード感や間を大事に作った記憶があります。そのあたりをミュージカルでどうみせるか。バケモノたちの描き方も気になるところです。バケモノの通行人役で僕を使ってくれないかな(笑)。ムダに動きますよ!
僕は『バケモノの子』の軸となるテーマでもある、熊徹と蓮の師弟関係が大好きです。不器用でぶっきらぼうな二人が深くつながるからこそ、ラストシーンが胸を打ちます。親子の会話が減っていると言われる今だからこそ、そんな二人の関係をがっつり描いてほしいです。そこに多々良や百秋坊がどんな風に絡んでいくのか。また、楓と出会ったことで、蓮の世界が広がっていく描写も大好きなので舞台でも楽しみにしています。
(出演候補キャストを見ながら)蓮の母役というのもあるんですね。映画では限られた登場の仕方でしたよね?これが四季ならではのスパイスのひとつなのかもしれませんね(笑)。
チラシにある「とんでもないスケールのミュージカルになった」というキャッチフレーズのとおり、映画の良さを残しつつも映画とは違う、四季ならではのパワーがあふれるミュージカルを期待しています。俳優さんが輝くところも見たいです!といっても、四季はいつも期待以上のものを見せてくれますから、なんの心配もしていませんけれど。(談)

取材・文=長谷川あや
(「ラ・アルプ」2021年12月号掲載)

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"父親"の包容力、強い愛情に心揺さぶられる岩井勇気(ハライチ)

放送中のテレビアニメはすべて観ています。子どもの頃からアニメは好きでしたが、「全部観てやろう」と思い始めたのは、2014年頃だったと思います。アニメーションそのものが好きなんですよ。絵が動いてるだけでいいんです(笑)。滑らかに動くアニメはもちろん、絵の枚数が少なくてカクカク動くようなアニメにも魅力を感じます。どうやって絵が動いているかがわかるじゃないですか!
アニメーション映画では、細田守監督の作品はとくに好きで、公開中は、時間が許す限り、何度か映画館に足を運び、没頭します。確固たる世界観があり、アニメーションの奥行きもある。仮想空間だったり、「バケモノの子」なら異世界だったりと、自分が見たことのない、行ったことのない場所に連れて行ってくれるんですよね。
「バケモノの子」は、細田監督の作品のなかでもいちばん好きな作品です。母と子どもを題材にした作品にもぐっと来ますが、この作品には、愛情を前面に出さない父親のカッコよさというか、包容力が描かれている。主人公の九太には、本当の親子ではないけれど、育ての親のような存在である熊徹と、離れて暮らしている実の父親がいます。その二人の父親がどちらも魅力的なんですよ。物語中盤で出てくる本当の父

いわいゆうき:1986年埼玉県生まれ。幼なじみの澤部佑とお笑いコンビ「ハライチ」として2006年にデビュー。初のエッセイ集「僕の人生には事件が起きない」(新潮社)は10万部を超えるベストセラーとなり、昨年9月28日に出版した第2弾エッセイ集「どうやら僕の日常生活は間違っている」は早くも6万部を突破の大ヒット中。冠ラジオ番組「ハライチのターン!」(TBSラジオ)のパーソナリティーをはじめ、多数のレギュラーを持つ。昨年は自身初原作・プロデュースの乙女ゲーム「君は雪間に希う」を発売、ヤングマガジンで原作漫画「ムムリン」の連載をスタートするなど活動の場を広げている。

親を、少し悪く描くのかなと思ったのですが、そうではなく、こちらの気持ちもとてもわかるんですよね。そして、熊徹は九太のために、独身で子どものいない僕には思いもつかないような選択をします。父親の子どもに対する愛情の強さには驚かされるとともに、泣けました!そして、たとえ血はつながっていなくてもその愛情は変わらないんだな、と。
舞台にも向いている作品だと思います。予備知識がなくても作品の世界に入っていきやすいですし、細田監督の作品のなかでいちばんダイナミックに舞台化できる作品ではないでしょうか。バケモノの世界は華やかなものになるでしょうし、クライマックスのシーンをどう表現するかも気になります。細田監督は、仮想空間や異世界、タイムスリップなど二つの世界を描くことを得意とするイメージがありますが、それを舞台でどう描くのか──。明確な悪者が出てこないので、すべての登場人物が好きになれるし、また、老若男女すべての人が楽しめる作品でもあると思います。そして、泣けるけれど、一緒に行った人に涙を見られても恥ずかしくない、そんなところも、「バケモノの子」の素敵なところではないでしょうか。(談)

取材・文=長谷川あや
(「ラ・アルプ」2022年1月号掲載)

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新しいものを取り入れる劇団四季にいつもワクワクしています村上佳菜子

映画は積極的に観るようにしています。ディズニーアニメーション映画は大好きで子どもの頃からたくさん観ていました。そこからディズニー以外のアニメーション映画にも興味をもつようになり、「バケモノの子」もとても印象に残っている作品です。
ワイルドなバケモノの熊徹が少年・蓮(九太)と出会い、だんだんと変わっていくところは、キュンとします。人間とバケモノという異質なものが心を通わせ合い、そこで生まれた愛情によって変わることができるという、力強いメッセージ性に勇気付けられました。途中気持ちがすれ違ってしまうふたりですが、クライマックスで熊徹が猪王山と闘っている闘技場に九太が姿を現すシーンには心が揺さぶられ、泣いてしまいました。
この作品を、大好きな劇団四季がミュージカル化すると聞いた時は、「この世界観をどうやって舞台に?」と驚きました

むらかみかなこ:1994年、愛知県生まれ。3歳からアイススケートを始め、2009年のJGPファイナル、2010年の世界ジュニア選手権で優勝。2014年はソチオリンピックに出場、同年の四大陸選手権で優勝した。2017年に競技生活から引退。現在はプロフィギュアスケーターとしてさまざまなアイスショーに出演するほか、タレントとしてテレビやイベントを中心に活躍している。

し、とても期待しています。実は劇団四季とはとてもご縁を感じているんです。初めて観たミュージカルは『ライオンキング』。子どもの頃、通っていたバレエ教室には四季を目指すダンサーの方がたくさんいました。地元である名古屋の劇場には、子どもの頃から何度も足を運んでいます。『オペラ座の怪人』は、好きすぎて、2014~15年シーズンには、ショートプログラムではクリスティーヌを、フリースケーティングでは怪人を演じたほどです。『オペラ座の怪人』の楽曲は、スケーターにとても人気がありますが、女子選手で怪人も演じたのは私くらいではないでしょうか(笑)。
フィギュアスケートでは、音楽を解釈し、あふれ出る思いを、体で、そして、スケーティング技術で表現します。現役時代は、俳優さんの表情を細かくチェックしたり、この音楽にはこんな振りが付くんだとか、このシーンでこういう衣裳をもってくるんだとか、かなりスケーター視点の観劇をしていましたが、引退した今もミュージカルは大好き。じつは昨日も、[秋]劇場で『オペラ座の怪人』を観てきたばかりなんですよ。常に新しいものを取り入れていこうという劇団四季の姿勢には、いつもワクワクさせてもらっています。バケモノの熊徹や、強気だけど弱い部分もある九太をどんな風に表現するのか、人間の世界からバケモノが住む渋天街への切り替わりも気になるところです。あと私は、二人が喧嘩をしながら本当の親子のようになっていくところが大好きで。映画で印象的だった料理や食事のシーンがどんな風に描かれるのかも注目しています。テレビ番組のレポーターとして、劇団四季の舞台裏を取材させてもらった際、舞台装置や小道具がいかに精巧に作られているかを目の当たりにしているので、期待は高まるばかりです。ほかにもいつもキレキレの俳優さんたちによるアクションシーンなど、楽しみは尽きません! ぜひ細かいところも注目して観劇しようと思います。(談)

取材・文=長谷川あや
(「ラ・アルプ」2022年2月号掲載)

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