実写映画「リトル・マーメイド」公開記念対談

全国映画館にて公開中の実写映画「リトル・マーメイド」。
日本語吹替版でアリエル役を務めた豊原江理佳さんと、
劇団四季のディズニーミュージカル『リトルマーメイド』のアリエル役のひとり・木村奏絵との対談が実現。
作品、そして、アリエル役への思いを語ります。

取材・文 = 長谷川あや

※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2023年7月号に掲載されたものです

――おふたりは今回が初対面ですか?

豊原江理佳さん

木村 はい。でも、私は子役をやっていたので、子役時代から活躍されていた豊原さんとは共通の知り合いも多く、勝手に「江理佳ちゃん」と呼んで身近に感じていました(笑)。

豊原 ありがとうございます(笑)。私がレッスンに通っていたスクールにも四季を目指していた人、実際に四季に入った人が何人かいます。

――映画、舞台とジャンルは違いますが、それぞれアリエルを演じようと思ったきっかけを教えてください。

豊原 ブロードウェイの舞台を観た時に買ったCDを、子どもの頃からずっと聴いていましたが、ビビっと来たのは今回の実写版の予告編を観た時です。私は臆病な性格で、自分から行動を起こすタイプではないのですが(笑)、すぐに事務所に「オーディションだったら絶対呼んでください」とお願いしました。絶対にやりたかった(笑)。

木村 アリエルは、四季に入団して一番演じたいと思っていた役柄です。初めて四季の『リトルマーメイド』を観た時、フライングの技術や斬新な舞台構成に圧倒されました。「あの空間であの名曲を歌えるなんて、どんなに気持ちがいいんだろう?」なんて想像していたのですが、実際にワイヤーで吊られて泳ぎながら歌うのはとても大変で。しかも私、実は泳げないんですよ(笑)。息の吸い方も違うし、最初に劇場で吊られた時は頭が真っ白になってしまいました。

木村奏絵

豊原 私も普段は舞台のお仕事が多いので、映像に声を合わせるのは、初めての体験でした。新しい挑戦で苦労もありましたが、あの素晴らしい音楽に自分の声が乗るということが、とてもうれしくて楽しくて幸せに感じています。また、楽曲が感情が動くように作られていて、歌っていると自然にアリエルの気持ちになれる、そんな感覚も覚えました。

木村 音楽そのものがキャラクターの心情の変化を表現しているんですよね。だから私、(歌が入っていない) オーケストラ音源で『リトルマーメイド』の楽曲を聴くのも大好きで。

豊原 とくに好きな曲ってありますか。

木村 難しい質問ですが(笑)、強いて言えば、舞台化の際に追加された「どんな夢より」でしょうか。あこがれの人間の足を手に入れて、うれしくてたまらないアリエルの気持ちを表現したハッピーな曲で、歌っていて心が躍ります。

豊原 私は、曲ではないのですが、アリエルは、声を失った後、何度か「あああ〜」って歌うんですよね。 実際に声にしてみて、「あああ〜」 の表現の幅の広さに驚きました。私のこだわりのポイントでもあるので (笑)、注目していただけたらうれしいです。

――アリエルというキャラクターをどうとらえ、どう演じていますか。

木村奏絵

ディズニーミュージカル『リトル・マーメイド』より
トリトン=金本和起、アリエル=木村奏絵
撮影=野田正明

豊原 アリエルは、タブーを恐れず、自分の夢を自分の力でつかみ取っていきます。今回の実写版は、そんなアリエルをはじめ、キャラクターの心の葛藤をとても丁寧に描いて、そんなところを繊細に表現したいと思いました。

木村 夢をあきらめないって、とても勇気が必要なことだと思うのですが、アリエルは決してブレません。そんなアリエルの強さに私も勇気付けられています。

豊原 今回、初めてアリエルを演じて、私たちは誰もがアリエルの要素を持っているのではないか、とも思いました。期待を膨らませて陸に上がったけれど、声が出ず、自分の思いを伝えることができないアリエルの姿は、夢を抱いて大阪の田舎から上京したばかりの頃の私自身に重なります。都会に圧倒されて、一日がとても長くて、夜一人で泣いていました。きっと誰もが、新しい環境で、葛藤を覚え、落ち込みながら、でもあきらめたくない夢を持っていると思うんです。そんな心のひだを大切にしました。

木村 よくわかります。私が初めてアリエルを演じたのは、21歳の時でした。劇団に入ったばかりで、まだ右も左もわからない頃だったのですが、きっと人間の世界に飛び込んだアリエルも同じですよね。そして、目に映るものすべてが新鮮だったとも思うんです。先輩方からは、「等身大のままでいればいいんだよ」というアドバイスをいただきました。

豊原 素敵です。私は舞台が本当に好きで、こんな風に他の俳優さんの役作りの話を聞くのが興味深くて、今日はとても楽しい時間を過ごさせてもらっています。 等身大でいることは私もとても大切にしています。オーディションも収録も今の私をすべてぶつけようという気持ちで臨みました。そこで得た、「これはアリエルだけが感じている思いじゃない、誰もが感じていることなんだ」という気づきも、歌とせりふに思い切り込めたつもりです。共感してもらえるアリエルになっていたらうれしいです。

木村 劇団四季で上演している『リトルマーメイド』は、ヨーロッパ版がベースになっていて、アリエルとトリトンの親子の愛を丁寧に描いています。 劇中、二人は何度も言い合いになってしまいますが、それはお互いのことをとても大切に思っていて、ちゃんと理解してほしいから。その根底にある愛を、丁寧に表現したいと考えています。ただ、私自身は、自分の思いを人に伝えるのが苦手で、しっかりと自己主張できるアリエルがうらやましかったりもします。そもそも私とアリエルは正反対の性格で、共通点は末っ子というところくらい(笑)。アリエルを演じはじめてから何年か経ちましたが、未だに自分がアリエルを演じているのが、夢なのではないかと思うこともあります。

豊原 私も初めて自分の声がのっている映像を観た時はすごく不思議な感覚でした(笑)。

木村 アニメーション版(1989 年製作)の公開は私が生まれる前だったので、大好きなこの作品を大きなスクリーンで観られるのは今回が初めてになります。今からとても楽しみです。

豊原 「夢はあきらめちゃいけない」という強いメッセージを持ち、音楽も映像も素晴らしい作品です。心をたくさん動かしてもらえると思います。「アンダー・ザ・シー」の美しさは鳥肌ものでした。ぜひ楽しんでいただきたいです。

実写映画「リトル・マーメイド」、全国映画館にて公開中
©2023 Disney

撮影=上原タカシ