劇団四季

『ウェストサイド物語』新演出の魅力を語る 松島勇気×萩原隆匡×岡村美南

歴史と伝統あるこのミュージカルに新しい息吹を与え、今の世代の人々に届けたい――。
そうした願いから、四季は2016年、『ウェストサイド物語』の新演出に挑むことになりました。

新たな演出を手掛けたのはジェローム・ロビンス財団が定めた公認振付師で、ロビンス本人から直接振りを教わった経験を持つジョーイ・マクニーリー氏。連日エネルギーに溢れた熱い稽古を行いました。
そんなマクニーリー氏による稽古を、身を持って体験した俳優らに、新演出の魅力を尋ねました。

写真左より、松島勇気岡村美南萩原隆匡

※この座談会は、2016年5月31日に放送された「ニコニコ生放送」の内容を編集したものです。

稽古を振り返って

劇団四季初演から40年。今も変わらず代表的で重要な作品の一つであり、世代を越えて多くのお客様に愛され続けています。そして今年、作品に込められた大切な魂を受け継ぎながら、新たな演出に挑みました。まずはその創作活動を振り返りましょう。
演出家ジョーイ・マクニーリーさんの稽古はいかがでしたか?

萩原:いやあ、すごい人でした。なんだろう、言葉では表現できない凄さがありました。ジョーイさんの魅力にみんなが引き込まれながら駆け抜けた、濃厚な時間だったかな。

松島:圧倒されたよね。厳しいのはもちろんだけれど、人間性がとにかく素晴らしいので、安心してついていくことができた。

岡村:よくご本人は「パッション」っていう言葉を使っていましたけど、彼そのものがものすごい情熱家。誰よりもパッションがあった気がします。

稽古中、ジョーイさんに言われた言葉で印象に残っていることはありますか?

岡村:もういっぱいありすぎて・・・。

松島:僕はリフを前の演出でもやらせていただいていて。以前は闘志に燃えるというか、熱い青年として演じていました。でもジョーイから「リフは熱くならない。頭が良くて感情をコントロールできる人。つねにクールなんだ」と。

萩原:ベルナルドはリフの真逆。感情的で一直線。僕も前回と全然違ったので、もう大変だった(笑)。

リフはクールで、ベルナルドは情熱的ということですね。アニタはいかがですか?

岡村:アニタは本当に愛に溢れた人。様々な人や出来事を許すことができて、受け入れることができる。アメリカという国さえも受け入れて、自由にたくましく輝くことができる。ジョーイは「マリアはチェンジの人で、アニタはチャレンジの人」、と言っていました。

あと演出面で印象的だったのは、「争いごとに関係のない女性にも焦点をあてたい」とおっしゃっていたこと。
恋人である少年たちの争いごとにはまったく関心がなく、縁もなかった彼女たちが、怒りや憎しみの渦に巻き込まれていってしまう悲劇――。それを象徴するのが、1幕後半の「クインテッド(「トゥナイト」五重奏)」で、少年たちが地上で怒りに任せて歌っているなか、女性たちはそれよりも高いバルコニーで歌っている場面。あのバルコニーのシーンは、少年たちの憎悪とは無関係の場所に女性たちが居て、幸せの絶頂にいるという対比を表しているんですって。

新演出版について

なるほど、そういう関係性があの場面に構図として描かれている訳ですね。
そのような演出意図は各場面で見られると思いますが、今回の新演出版については、どういうところが変わったと感じていますか?

萩原:“何が変わったか”を具体的に説明するのは難しいよね。僕自身、実際に目に見えて大きく変わったとは思ってない。作品のテーマもシーンも変わっていないから。
何が変わったのかというと、一番は役へのアプローチ方法や作品を築き上げるプロセスだと思います。

松島:あとは、これまでの公演と比べて若い世代の俳優がたくさん参加しているので、“若いエネルギー”やフレッシュさが感じられたんじゃないかな。この作品は子どもたちの物語であり、その若さゆえに起きてしまった悲劇であるということが、実感としてはっきり分かるようになった気がする。

岡村:ジョーイが「パッション」という言葉をよく使っていたように、稽古中、感情をむき出しにしながら取り組んでいました。「お客様は舞台から流れてくる膨大なエネルギーに心を動かされてびっくりするだろう。だからこれで良い。信じて」って。みんなその言葉を信じて、出し切っていた気がします。

歴史と伝統のある作品ですが、まだまだ底知れぬ深さがありそうですね。

松島:そうですね。ジョーイはジェローム・ロビンスの振付を大事に継承しながら、自分のニュアンスを取り入れていった。「今の世代の人々に観てもらえなければ意味がない」って。だから時代が変わればそれに応じて進化するんだろうね。

萩原:「博物館にしたくない」ってずっと言っていたよね。「この作品を生き返らせたい」って。彼の言葉ってすごくわかりやすくて、スッと腑に落ちる。

岡村:衣裳や髪形も今の人にも受け入れられるようなデザインに変わったんですよね。これまでは時代を重要視して、忠実にしていたけれど。
とくに体育館のシーンの衣裳は総入れ替え。

萩原:「これはデートだ。そんな恰好おかしい!」って(笑)。ジェットもけっこう変わったよね?

松島:そうだね。プロローグのシーンとか変わった。

衣裳の変化も見どころですね。
そして今回、舞台の使い方もこれまでと印象が違うように見受けられました。

岡村:舞台転換がスムーズになったんですよね。暗転をなくしてシーンを曲で繋いでいる。

萩原:そうそう。これまでの演出では転換の回数と時間が多かったけど、今回は暗転も転換もすべて見せてる。

“見せる場面転換”ということですね。確かに大変スピーディーな印象も受けました。

萩原:そう。そのスピーディーさが大事なんです。少年たちの、コントロールが効かないがゆえにああいう結果になってしまった。それがこの物語の悲劇の一因だって。

“振付はすべてに意味がある”

なるほど。振付もすべてに意味がある、と聞いたことがあります。例えば冒頭のプロローグはどのような意味があるのでしょう?

松島:例えば腕を水平に広げてジャンプする振付。ひと周り、ふた周りと大きく膨らんでいく。あれは、「ワンブロック先は俺たちの縄張りなんだ。いやいや、その一つ向こうのブロックまでが僕たちの縄張り。いやいやいや、さらにその先、いやこの辺り一帯すべてが俺たちのものだ」っていうふうに、どんどん広がっていってるんです。

萩原:あの時の振付で腕を水平にして踊るのは「ジェット」という意味だよね。ジェット(飛行機)の羽。

岡村:マンボのシーンでもアニタとベルナルドが腕を水平にしながら左右に揺り動かす振りがあるけど、あれはジェットを小ばかにしているんですよね。

松島:ジェットは他にも手を飛行機の羽のようにする振付が出てくるからね。象徴なんだろうね。

そういう意味だったんですね。逆にシャークに対してジェットが行う振りというのはあるんですか?

松島:プロローグは一つひとつあるよね。言葉がないから、動きで表現してる。
(腕を大きくまわしながら)「あっちへ行け」とか、(手で追い払うように)「シッシッシッ」とか。(手でこぶしをつくり、胸の前で交差させて)「ここは俺たちが守る」とか。

萩原:基本的には新演出で振付が変わったことはない。「この振付は完璧なものだから、変える必要はない」って。

シャークはいかがですか?例えば3人の脚上げの振付は作品の象徴でもありますよね。

萩原:シャークには“敵に背中を向けてはいけない”というルールがあるんです。街を歩いているとき、彼らはいつも背中から攻撃されてきたから。
だからキュッて止まって後ろを振り向く振付があるけど、あれは後ろを注意して見ているという意味。

プロローグの場面でジェットと鉢合わせをしたのも、あの時が最初じゃない。すでに1回会っていて、そこでやられてるんです。だからプロローグでジェットと出くわしたとき、目線を落としてやり過ごそうとする。でもケンカを売られて、結局仲間を呼んできて争う。
"この街では一人で道も歩けないのか"、とシャークはどんどんフラストレーションが溜まっていき、どうすることもできない怒りのエネルギーが爆発して、あの脚上げに繋がってる。

あと肘を曲げて背中で三角をつくる振りがあるけど、あれは「シャーク(サメ)の背びれ」を表してるんだって。

爆発。「クール」の場面にも近しいものがありそうですね。

松島:そうですね。日頃から抑圧されてきた気持ちを爆発させたい。でも、抑えろ、落ち着けって。

萩原:リフにとってアクションは厄介な存在なんだよね?確か。

松島:そうそう。リフはアクションを抑えておきたいと思ってる。

萩原:アクションはリーダーの座を狙ってるんだよね。

松島:そう。でもリフはアクションの痛みもよくわかるから、そばに置いて仲間にしている。

萩原:シャークは人種差別に苦しんでいるけど、ジェットは一人ひとりが虐待とか家庭の問題や痛みを抱えているもんね。
リフは頭が良いんです。捨て子だから。

松島:そう、捨て子。だから孤独を恐れるあまりに仲間意識が強くなった。
ジェットは親に捨てられたり、虐待を受けたり、みんなつらい思いをしてるんだよね。家に帰ることができない子どもたちの集まり。

岡村:対照的に、シャークは「家族」を思う気持ちが強いですよね。ベルナルドもあんなに怖い顔してるけど、妹のマリアに見せる顔は本当に優しい。

萩原:今回ベルナルドに新しく追加された台詞で、マリアに向かって「家族だから言ってるんだ!」って怒鳴る場面がある。
「シャークには家族がいて、ジェットにはいない。その対照的な関係性見せたい」ってジョーイが言ってた。

岡村:ええ。そして「それぞれが別の問題を抱えてるけど、すべてにおいて共通しているのは、怒りの裏側には痛みや悲しみがあるということ」って言ってましたね。

不安定さ漂う、“完璧”な音楽

まだまだ話が尽きませんね。一方で、音楽についてお話を伺いたのですが、名曲ばかりが連なるこの作品ですが、歌い手としてはやはり難易度が高いのでしょうか?

岡村:音楽に関しても、本当に完璧で魅力的なんですけど、全体的に一貫しているのがどこか不協和音というか、不安定さが漂ってるんですよね。
「トゥナイト」なんかもそう。長調っていう明るい響きでトニーとマリアが幸せそうに歌っているんだけど、次の音が「ソ」だったらきれいなのに、そこに行きつかない。
だから"よからぬことが起こるんじゃないか"っていう不安さが漂う。
そういうストーリーに合致した音階も完璧だな、って思う。

松島:でもやっぱり難しすぎる。とても素晴らしい曲なんだけど、音階だけじゃなくてリズムも難しい。「クインテッド」なんて本当に危ないから(笑)。
歌いだす直前に「頼むぜトニー」って台詞言ったあとすぐに「あてにしているぜトゥナイート♪」ってリズムに乗らなきゃならない。

岡村:そう。メロディに関してもリズムに関しても、気持ちよくいきたいところを、絶対にそうさせてくれない。

松島:アニタも難しいよね。

岡村:そう、アニタも危ないんですよ。最初は指を折ってカウントとりながら稽古してた(笑)。

メロディは不協和音によって不安が漂うというお話でしたが、リズムに関しても緊迫感を表現しているということですよね。

岡村:絶対にそうだと思う。ジェットとシャークの対立もそうだし、トニーとマリアの恋の行方もそうだし。

萩原:ベルナルドが歌うのは5重奏の「クインテッド」くらいだけど、あれだけでも難しくていつも緊張する。
身体に入るまでやるしかない。でも考え始めるとまたわからなくなっちゃう。
でも本当にこの作品って、心情と振付と音楽がすごいマッチしている。こんなに完璧に合った曲と動きってないなって思いますね。本当に素晴らしい作品だと思います。

「この作品には神が宿っている」というキャッチコピーがありますが、まさにそういう作品ですよね。
興味深い話をありがとうございました!

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