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コラム

想いは必ず届く――『はじまりの樹の神話』東北沿岸部ツアー、"いのちのつながり"の真の意味に触れ

今月12日から全国ツアーへと旅立った新作オリジナルファミリーミュージカル『はじまりの樹の神話~こそあどの森の物語~』。
出発地・関東エリアでの公演を終えたカンパニーは、次なる公演地・岩手県へ。9月18日(土)から10月8日(金)にかけて、岩手・宮城・福島の3県11都市を巡演する東北公演に臨みました。

想い続けた10年。もう一度、東北沿岸部でミュージカルを――東北公演がスタート

東日本大震災から10年。今年、日本中の人たちが3月11日に改めて東北に想いを馳せたように、劇団四季もまた強い決意のもと、ある計画を進めていました。
「もう一度、東北沿岸部でミュージカルをしよう」
2011年の震災直後、『ユタと不思議な仲間たち』東北特別招待公演を行った地域の皆さまのもとへ――。

東北最初の公演地、宮古公演――地元の方々に心を寄せて

『はじまりの樹の神話』カンパニーのなかに、特に東北沿岸部での上演を心待ちにし、特別な想いで臨む二人の俳優がいます。
10年前の『ユタ』東北特別招待公演に出演者として参加した、菊池正(『はじまりの樹の神話』ギーコ役/2011年『ユタ』ペドロ役)と、あべゆき(『はじまりの樹の神話』トマト役/2011年『ユタ』ユタの母役)です。

菊池は、岩手県釜石市出身。『ユタ』東北特別招待公演では、故郷を想い、こみ上げる気持ちをどうにか押さえながら被災された方々と向き合い、活動を全うしてきました。

『はじまりの樹の神話』東北沿岸部最初の公演地・宮古公演で行われたミーティング。菊池は、ともに舞台に立つ仲間の若手俳優にも想いをつなぐように、言葉を掛けます。

「あれから10年が経ちましたが、被災された方の心の傷は癒えることはありません。
東北公演に臨むにあたり、心の置き場をどこにもっていくべきか、ずっと考えていましたが、我々ができることは、来場されたお客様に心を寄せ続けることではないか、と。そうすれば、おのずと結果が付いてくる。それを信じて、舞台に立ちましょう」

ミーティング後、限られた時間のなかで集中してリハーサルに取り組む俳優たち。

宮古公演の会場は、宮古市民文化会館。震災により半壊となる被害を受けましたが、大規模な改修を終えて2014年に活動を再開。復旧記念のオープニング作品として、劇団四季にお声がけをいただき、ミュージカル『魔法をすてたマジョリン』を上演した縁のある会場です。

東北ツアー最初の会場、「宮古市民文化会館」。

開場すると、「楽しみだね」と話しながら開演を待つお子さま連れのご家族やご夫婦の姿が。本編が始まると、女性も男性のお客様も、何度も目頭を押さえながら、物語の行方を見守られていました。

東北ツアー最初の会場・宮古公演のカーテンコールでは、心のこもった温かい拍手に会場が包まれました。

復興の足跡をたどる――釜石で見た、「いのちをつなぐ」ということ

宮古公演を終えたカンパニーは、その日の夜のうちにチャーターバスで次の公演地・釜石市に移動。翌19日(土)、スタッフは早朝から釜石公演の会場「釜石市民ホール TETTO」に入り、舞台設営に取り掛かります。

トラックから舞台道具を降ろし、設営に取り掛かるスタッフたち。もともとこの場所にあった「釜石市民文化会館」は津波により大きな被害を受けて解体、2017年に「釜石市民ホール」と名称を変えて建て直されました。真新しい劇場に、スタッフたちの掛け合う声が響きます。

その頃、菊池正とあべゆきの二人は公演前の時間を利用して、会館から7kmほど北に位置する鵜住居(うのすまい)町へ向かいました。
釜石市の震災による犠牲者は、行方不明者を含め1000名以上。うち、半数以上の犠牲者が鵜住居町の方で、釜石でもっとも被害が大きかった場所です。

訪れたのは、震災を教訓にし、いのちを未来へつなぐための公共施設「うのすまい・トモス」。犠牲者を弔うための慰霊碑「釜石祈りのパーク」や、震災の教訓を写真や映像で語り継ぐ展示室「いのちをつなぐ未来館」があります。

慰霊碑に手を合わせ、花をたむける菊池正とあべゆき。
ここは「防災センター」があった場所。"安全"を信じて推定200名の住民が集まり、そこへ押し寄せた津波により、160名以上もの命が奪われました。
前面の壁には釜石市の犠牲者のお名前が刻まれ、奥の石壁はこの地区の津波到達地点11メートルを標しています。

展示室にて。初めて知る事実も多く、言葉を失いながら展示を見つめる菊池とあべ。1点1点の展示品から、 "未来にいのちをつなげよう"という強いメッセージが伝えられます。

展示室を見学しているなかで、菊池は小学生が描いた絵に目を止めました。中学生が小学生の手を取り、高台へ逃げる様子が描かれた絵です。学校の校舎は全壊したものの、生徒・児童は全員無事。のちに、「釜石の奇跡」と呼ばれた出来事です。

菊池はあべに、「これ見て」と声をかけます。
「"手を取り、いのちをつなげる"って、まさに『はじまりの樹の神話』の歌詞そのものだよ」

  生命(いのち)はみんな つながってる
  この手を 取り合おう
  離れないように

 (「生きるって」の歌詞より)

あべは応じます。
「両親を失って、弟と妹を残して逃げてきたハシバミ。残されたつらさや、逃げた後ろめたさを一人で背負う彼女と、同じ境遇、同じ想いを抱えている方がこの地域にはたくさんいらっしゃる。
そんなハシバミに心を寄せて、『本当はずっと辛いんだよ、ハシバミは』と気持ちを代弁したスキッパーの言葉に、彼女はどれほど救われたんだろう......。
私たちは舞台の上で役を演じることしかできないけれど、ハシバミを迎え入れる森の住人として、精一杯彼女を支えよう」

途中で立ち寄った、根浜海岸。津波により大部分の砂浜が消失しましたが、今年4月に砂浜再生工事が完了。復興の足跡から、人の力の偉大さを思い知ります。

想いがつながり、会場が一つになった釜石公演

その日の夕刻に迎えた釜石公演。ここで俳優・スタッフたちは、"想いがつながる"ということの実体験を得ることになりました。

首都圏から遠く離れた全国公演の会場では、劇中は静かにじっと見守ってくださる観劇スタイルがほとんど。しかし、釜石公演の客席は、その印象を大きく覆すほどの熱量。
1曲ごとに熱い拍手が送られ、苦しみを背負いながら困難に立ち向かうハシバミを手拍子で応援。握りこぶしをつくりながら、「がんばれ、がんばれ」と心の声で応援してくださる方の姿が見えます。
テーマ曲「生きるって」のナンバーが歌われると、あふれる涙を拭い、やさしい眼差しで舞台を見つめられる多くの方々。
さらに、希望が差したクライマックスの芝居のシーンにも拍手が――これは公演以来、初めてのことでした。

カーテンコールでは、客席は総立ち。一人ひとりの力強い拍手が会場中に広がり、出演者が手を振ればお客様が大きく腕を振って応じます。
それはまるで、客席から舞台にエールを送ってくださるように――。

釜石公演のカーテンコール。この会場でスタンディングオベーションが起こったのは、開館以来、初めてのことだったそうです。

活動の意義を再認識して――きっとまた、ここへ

客席に届けたはずの想いが、大きな力になって俳優たちに返ってきたような一体感が生まれた釜石公演。
お客様のあふれでる感情を目の当たりにした俳優たちは、興奮気味に話します。

「すごい一日だった。会場が一つになるって、こういうこと」
「この作品のテーマ、"想いは必ず伝わる""いのちのつながり"とはどういうものなのか。その本質がわかっていたのは、お客様の方だった。だから今日、本当の意味をお客様から教えていただいた」
「コロナが収束したら、またここに来よう。次はもっと長く、東北の人たちのために――」

終演後、スタッフから教えてもらいながら撤収作業を手伝う俳優たち(黄色いヘルメットが俳優)。お客様からいただいた大きなパワーを胸に、生き生きと作業に取り掛かります。

コロナ禍による困難。厳重の対策で臨むツアー公演

最後に――。混乱が続くコロナ禍で、劇団四季は、緊急事態舞台芸術ネットワークのガイドラインに基づきながら、感染予防対策のための環境とルールを整え、お客様にもご協力いただきながら活動を継続してきました。
各地の会場をお借りして行われる全国公演では、厳重な感染予防対策が講じられています。

検温器や大量の消毒液、手袋などの衛生用品を舞台道具とともにトラックに載せてまわり、会場ごとにお客様の導線を整備。客席からロビーの隅々まで消毒で拭き上げ、さらに、接触を控えるため、入場時はお客様ご自身でチケットの半券を切っていただくなどの対策をしています。

厳しい環境のツアー公演。その旅路で、一歩ずつ前に歩み続けてきた東北の方々の姿に、勇気をいただくことができました。コロナ禍を抜けた先に、この日出会ったような明るい笑顔があることを信じて、劇団四季はこれからも演劇活動を続けてまいります。

開演前、ホール館内をアルコール消毒で拭き上げる運営スタッフ。お客様には検温や手指消毒、チケットもぎりなどにご協力いただきながら、全国公演を運営しています。

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