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演出・振付 クリストファー・ウィールドン氏インタビュー

「この舞台は、すべての要素が三位一体となった、“音楽舞踊劇”なんだ」

アカデミー賞を席巻した名作映画『パリのアメリカ人』が、半世紀を経て待望の舞台化。その演出を手掛けるのは、イギリス・王立バレエ団出身という異色の経歴を持つクリストファー・ウィールドン氏。
クラシックバレエをルーツに持つウィールドン氏は、ミュージカル映画の金字塔にどんな新しい命を吹き込んだのか?

オーディションを終え、熱気冷めやらぬ中でのインタビューをお届けします。

ミュージカルの歴史において非常に重要な作品ですが、舞台化に際してプレッシャーはありましたか?

映画として輝かしい成功を収めたにも関わらず、これまで舞台化されていなかったのは驚くべきことです。それだけガーシュウィン財団が、誰に託すべきか慎重になっていた。そのバトンを受け継ぐことができて、とても光栄です。

多くのファンは、「もうとっくに舞台化されているだろう」と思い込んでいたでしょうね。そうした作品を新作として上演できるのは演出家として非常にやり甲斐を感じますし、今の時代にフィットした新鮮な感動をお届けできればと考えています。

舞台化に際してのコンセプトは、どういったものでしょうか?

まずひとつに、ミュージカルにおいて最高レベルのダンスを提供すること。多くの人は表現方法としてダンスよりも言葉の方が雄弁であると思い込んでいますが、実際は逆だと私は考えています。ダンスで物語を表現することは十分に可能であるし、言葉以上に詩的で普遍的であると。

今回の舞台は、映画よりも史実を織り交ぜた、深みのある脚本となっています。そうした複雑な物語であっても、ダンスで表現することができる。この舞台をご覧になった後は、皆さんのダンスに対するイメージが一変していることでしょう。

クラシックバレエを取り入れたミュージカルとしては『ウェストサイド物語』があり、この作品もファンに衝撃を与えました。

もちろん。ですが、私は今回の舞台のダンスをクラシックバレエだとは思っていません。もっと多様で、たとえばジャズとバレエの融合といった風に、あらゆるスタイルを表現方法として盛り込んでいます。そして、俳優だけでなく、セットも踊ります。

「セットも踊る」というのは斬新ですね!

史実を意識していると述べましたが、本作の舞台は第二次世界大戦後、ナチス侵攻の傷跡が生々しく残るパリ。暗い空気が漂う中で、誰かと絆を持ち、自分の存在意義を見つけ、再構築したいと願う根源的な希望がテーマとなっています。それは登場人物だけでなく、パリという街も同じ。人だけでなく街も踊り、戦後の闇の中から、自分自身を再発見していくのです。

こうした物語を語る上で、ガーシュウィンの音楽は、まるで私たちのためにアテ書きしたのではないかというくらいしっくりと馴染み、また皆さんがそう感じられるように選曲・演出しました。ですから、映画をベースにしていながら、まったく異なる印象を受けるかもしれません。
これが本作のもうひとつのコンセプト。つまり、ガーシュウィンが今の時代に生きていたら、どんな『パリのアメリカ人』を作ったのだろうということです。

ガーシュウィンが作ったであろう『パリのアメリカ人』をバレエダンサー出身のウィールドン氏が演出する。まさに多様な表現がクロスオーバーする、今の時代ならではのミュージカルとなりますね。

まず美しいミュージカルナンバーを披露して、芝居やダンスは添え物で、という舞台には絶対にしたくありませんでした。
これは俳優にも再三伝えますが、「君たちが出演するのは“音楽舞踊劇”なんだ」ということ。音楽と舞踊と芝居が三位一体となり、それらのあらゆる要素が、互いを信頼できるパートナーとして高め合っていかなければ、目の肥えた今の観客を満足させることはできません。

オーディションでは幸いにして、それを実現できる原石たちを見つけられました。そして、すでに数々のヒントを与えています。あとは、どれだけ成長できるか?
この舞台に立つことは非常に特別なキャリアであると、俳優には肝に銘じてもらいたいと思います。

開幕が楽しみです。それでは最後に、観劇されるお客様にメッセージをお願いします。

戦後の暗い時代にあっても、しなやかさとひたむきさを失わず、人生を謳歌しようとするジェリーたちの姿には、誰しも深い共感と希望を抱くはずです。そして、希望をもって生きるためには、他者と絆を持ち、愛や友情を与え合わなくてはならないとも。
生まれや話す言葉が違っても、誰もが愛を求めている。そして、愛を交わすことができる。この舞台において、音楽と舞踊と芝居が幸福な愛で結ばれているように。

あと最後に、やはり自分はバレエダンサーなので、少しでも多くの人にダンスを好きになってほしいですね(笑)。この舞台は皆さんのダンスへのイメージを一変させる力があると思いますし、実際にこれまでの公演でそうした現象を目の当たりにしてきましたよ。

撮影:下坂敦俊

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