岡田淳さんインタビュー

「感動」という言葉以外ないような、素晴らしい舞台。

まずは、ミュージカル『はじまりの樹の神話』をご覧になった感想をお聞かせください。

素晴らしいなぁと思いましたね。もう、感動、感動! 冒頭からウルっときましてね。1幕の終わりなどはもう、涙が出てしまうほど胸が熱くなって……本当に「感動」という言葉以外ないような、素晴らしい舞台でした。

冒頭のシーンは原作とは違う入り方ですが、その辺りはいかがでしたか?

作品の世界観にスーッと入っていけるような、とても印象的な始まり方ですね。はじまりの樹の誕生に続いて、祈りを捧げるシーンでは、呪術的な不思議な世界に連れていかれるような気がしました。
僕が文字で書いたものが、何人もの生身の人によって表現される。登場人物一人ひとりの生活や、その背後にあるものまでが見えてきて、厚みをもって感じられる。これこそ演劇の醍醐味じゃないかな、と思いました。

岡田さんは学生時代から演劇をなさっていた、とのことですが、舞台の観かたにも影響していますか?

ええ、そうですね。僕は高校時代から大学でもサークルをつくって芝居して。その後、小学校の先生になってからは、子どもたちと一緒に演劇部で、僕が脚本を書いて演出するようなことをしていました。だからやはりお芝居を観る時は、スーッとお芝居に引き込まれている時と、演出の仕方に「あ、このやり方いいな!」と感心するような時があります。

1幕最後のシーンに感動なさった、とのことですね。

あそこで二つの歌が重なっていくところが、ものすごく重層的で。昔の人たちの想いと、現在のこそあどの森の人たちの想いが重なっていくところが……。ハシバミという、過去から来たらしい少女のために、みんなが力を合わせてなんとかしてあげようとする、みんなの気持ちがいっしょになるシーンは、人々の心を動かしますよね。無条件にウルっとくる部分ですよね。

岡田さん一押しのシーン。大昔と現代が交錯する1幕ラスト。
歌では、どの歌が印象に残りましたか?

それはもう、何度も繰り返される「生きるって」というテーマソングですよね。生きることは一緒に笑うこと、一緒に泣くことだ、共感することだ、誰かの気持ちを分かることだ、と。それができたら明日に向かっていけるという、前向きで素敵な歌だと思います。「生きるって」というあのメロディーが残りますよね。
もう一つ、ハシバミが一人で歌う悲しい歌(「逃げたことを」)。自分が逃げてきたことを悔やみ、村に残してきた人たちを思って切々と歌う歌、いいですねー! すごく印象に残っています。どの歌も、キャラクターの感じに絶妙に合ったメロディーラインで、作曲家の方のセンスを感じました。

この作品の登場人物はみな、とても個性的ですよね。
演劇をやっていらした岡田さんが演じるとしたら、どの役を?

ホタルギツネがやりたいですね(笑)。原作では、ホタルギツネはオッサン的な感じだったんですけど(笑)、舞台ではもっと青年というかお兄ちゃん的な感じになっていましたね。だからスキッパーと年齢的に近くなって、対等に付き合えるような感じの気持ちよさがあったかと思います。

ホタルギツネは原作とはちがって関西弁をしゃべりますが。

はじめはビックリしました(笑)。でも舞台を観ていたら違和感が無くて。人間とは違う種族ということもあるでしょうし、なるほどねー、と思いました。自分をギャグにしながら、軽いノリでしゃべることもできるところが良かったですね。この舞台では、関西弁は正解でしたね。

スキッパーは内気で、自分の世界を楽しむタイプの男の子です。
そういう子を主人公にしたのは、何か意図がおありだったのでしょうか。

意図というか、特に何かを言いたいがために書いているということはないんですよ。ただ、小学校で教師をやっている時に子どもたちを見ていて、明るくのびのび、みんなとやっていけるような子どもたちもいいけれど、あまり自分のことをみんなの前では話さないけど何かを考えているみたいな子もいて。そういう少年や少女のことが気になりました。「この子は今、何を考えているのかな」と思うことがよくあって。そういうことが反映されていると思います。
読者からの手紙で、スキッパーをあのように、自分の時間を大事にしている子として描いてくれてすごく救われたという共感のお便りをいただいたりして、良かったなと思っています。

全国公演カーテンコールの様子
ミュージカル『はじまりの樹の神話』は、自由劇場からスタートして、この後、全国をまわります。
全国の、この舞台を観る子どもたちに、メッセージをお願いします。

お芝居を観る時には、生身の人間がやっているということを感じてほしいと思います。人間が演じて、それを人間が観る、そういう関係を感じてほしいです。それにはまず、演劇の現場に子どもたちが足を運んでくれたら嬉しいですね。
演劇を観て何かを感じる、何かを思うということは、自分で決めることなんですよ。誰かに「つながるって大切なことだよね」と解説されるのではなく、「ホタルギツネみたいな友だちが自分にもいたらいいな」とか「僕はハシバミが好きだな」という感覚が大事。あえてそれを誰かとディスカッションしなくてもいい。自分というもの、自分の感覚というものが大事だと思います。
僕としても、この壮大な『はじまりの樹の神話』という舞台の一部分になれたというか、そこに属しているということがすごく嬉しいし、誇りに思います。よくぞこの本を選んでくれました(笑)。

岡田 淳 おかだ じゅん

1947年兵庫県に生まれる。高校大学では演劇サークルに所属。神戸大学教育学部美術科を卒業後38年間小学校の図工教師をつとめる。退職後も小学校の演劇部で子どもたちの表現に関わり続けている。1979年に児童文学作家デビュー。学校を舞台にした作品を数多く発表するかたわら、1994年に「どこかにあるかもしれない」不思議な森を舞台にしたファンタジー「こそあどの森」シリーズを発表、野間児童文芸賞講評では「日本のムーミン谷」との評を受け、ライフワークとして書き継ぎ2017年に12巻完結、2021年にはシリーズ番外編が刊行された。他作品でも受賞多数。