ファミリーミュージカル『王様の耳はロバの耳』は、古代ギリシャの同名の神話をもとに、「言葉の錬金術師」とも呼ばれる歌人・寺山修司が書き下ろしたミュージカルです。
1965年、第2回ニッセイ名作劇場として初演。以来、四季のファミリーミュージカルの一つとして繰り返し上演され、多くのお客様に親しまれてきました。
名作童話としても名高く、一見、子ども向けのおとぎ話に見えるこの作品ですが、決して「むかしむかしのある国」の話で片付けられるものではありません。情報があふれるこの現代にこそ、真実を見きわめる目を持つこと、本当のことを言う勇気、間違いを素直に認める心が求められているかもしれません。
わがままな性格から、神様によってロバの耳に変えられてしまった王様と、王様の髪を切るためにお城に呼ばれ、その秘密を知ってしまった床屋......。 彼らや町の人たちの行動や考えは、身近な何かや誰か、あるいは自分にも重なって、はっとさせられることがあるかもしれません。
この物語はきっと、子どもにも大人にも大切な"本当のことをいう勇気"を教えてくれることでしょう。
むかしむかし、ある国に、とてもわがままで乱暴な王様が住んでいました。王様の悪口を言う人は、みんな処罰されてしまいます。それが本当のことだとしても、決して許してもらえません。だからお城の人たちも、王様のごきげんをとってばかり。
しかし、王様には大きな秘密がありました。なんと、王様の耳は毛むくじゃらの「ロバ」の耳だったのです。
王様の髪を切りにお城に来た床屋たちは、つい「王様の耳はロバの耳」と口にしてしまい、みんな牢屋に入れられてしまいます。とうとう町に残った床屋はたったひとりに。その最後の床屋も、お城へ呼ばれてしまいます。床屋は王様の耳を見てビックリ!
けれど、ほかの人には言わないという条件つきで、町へと帰してもらうことができました。
町に帰った床屋は無口になり、すっかり人が変わってしまったよう。王様の秘密をしゃべると、牢屋に入っている父親を殺すとおどされているのです。そんな床屋を、町の人たちは白い目で見る始末。
思い悩んだ床屋は、いつのまにか森へとやってきていました。そして、人に言えない苦しみを木々に向かって打ち明けます。すると、どこからともなく森の精たちの声が聞こえてきたのです。
「お言いなさいな、本当のことを。私たちはいつでも、あなたの味方。森はいつでも生きている。本当のことも生きている」
森の精たちにはげまされた床屋は、本当のことを言うために、もう一度勇気を出そうと決意をします。
さて、"本当のこと"は王様の耳に届くのでしょうか?
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