【対談】『エクウス』への挑戦――アラン役・横井 漱×ジル役・松山育恵

1607eq_title.jpg東京・自由劇場で開幕を迎えた『エクウス』。
今年3月、6年ぶりの上演に向けて主人公アラン役とジル役を選抜するためのオーディションが行われ、30名の若い男女が挑戦。結果、両役ともにストレートプレイ初挑戦というフレッシュな俳優が抜擢されました。
アラン役には2010年に研究所に入所し、『キャッツ』やファミリーミュージカル、『ウェストサイド物語』に出演してきた横井 漱が。ジル役には、『コーラスライン』で初舞台を踏み、昨年上演された同作では、3つの役を演じた松山育恵が選ばれました。
2ヶ月にもおよぶ稽古を経て、今、体当たりで舞台を務める横井と松山が、本作に挑んだ思いと、作品の魅力を語りました。


―― ついに6年ぶりの『エクウス』が開幕。初日公演のカーテンコールでは、出演者全員がホッとしたような笑顔を浮かべていたのが印象的でした。まずは無事に開幕を迎えた、今のお気持ちを教えてください。

横井:いやもう本当にドキドキでした。初めてのストレートプレイという緊張と、2ヶ月間稽古してきたけど"これで大丈夫なのかな"っていう不安と......。
それに加えて、お客様から伝わる緊張感。面白いのが、この作品ってお客様が緊迫した空気を作ってくださるんです。開場中も静か。ピッキーンって。1幕が終わった後は、拍手がないときもあって。
だから客席の反応がまったく分からないんです。"伝わってるのかな?"って。ずっと不安のままカーテンコールになって、そこで初めてお客様の拍手が聞こえた瞬間、ようやくホッとましたね。
でも初日から数日経ちましたが、今も怖い。毎日恐怖と向き合っているような感じです。

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松山:私は初日、全然緊張しなくて。なんだろう、ワクワクしていました(笑)。お客様の緊張とワクワク感が伝わって、私もその空気に便乗させてもらったというか。
あと、ジルの明るくケロッとした性格のせいもあるのかもしれません。

横井:はぁ......、羨ましいな(泣)。

松山:私たち全然キャラクターが違う。真逆だもんね(笑)。

横井:僕はもう開演前は楽屋の電気を消して、真っ暗な状態でしばらく過ごしてるんです。でもすごく難しいのは、まず最初にアランではなく一人の俳優としてステージシートに座るので、殻に閉じこもったまま開演を迎えてもダメだということ。だからしばらく閉じこもってアランの感覚を作った後は、いつもの自分に戻って過ごしてます。

(演出スーパーバイザーの加藤)敬二さんにも言われたんです、アランって切り替えがとても大事だと。俳優からアランへの切り替え。現在から幼少期のアラン。普段のアランから、馬と出会った時や馬の話をするとき。ジルと出会った時。その瞬間瞬間でパッと切り替える。
その"切り替え"を大事にしてます。

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―― アラン役とジル役は、オーディションで選出されました。この作品、そしてこの役に挑もうと思われたきっかけは?

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横井:オーディションかぁ、全然記憶がないですね。もうド緊張だったから(笑)。
僕、ダンサーとして『キャッツ』で初舞台を踏みました。でもそのあと出させてもらったファミリーミュージカルや他の作品の役は、台詞が多かったんです。それで芝居に興味が沸いてきて、いつか40歳くらいになったら、ストレートプレイに出てみたいなって。ストレートプレイは劇団の原点ですから、憧れのような存在でした。

そんなとき『エクウス』の上演が決まり、オーディションをすると知って、"ダメ元で受けてみよう、きっと良い経験になるだろう"っていう気持ちで挑みました。
正直、受かるとは全然思ってなかったです。"ほかの誰かがやるだろう"って。これまで本当にすごい先輩方がアラン役をされていて、僕には大きすぎる役ですから。

 
 
松山:私は実は「受けてみない?」って声をかけていただいたんです。それまでストレートプレイとは縁もなかったので、まさか自分が関わるとは思っていなくて。だから実感のないまま舞台映像を見て、台本を読んで......。そうしたら"なんだこの面白い台本は"って! どんどん惹き込まれて、一気読みでした。それで改めて、"受けよう!"と思いました。

横井:でも、実際に受けたオーディションはもう、それまでのミュージカルとは大きく違ってとにかく緊張した。

松山:2日にわたってやったんだよね。2日目は3人ずつに絞られて。

横井:そうそう。ペアを入れ替えながら、ワークショップ形式の審査。途中で「こうしてみて」って言われて、その場で実践。すぐダメ出しを受けてもう1回......っていう風に。
僕、途中からワケが分からなくなって、「あ~~~~」ってフリーズしました(笑)。

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―― こうして全30名の受験者からお二人が抜擢されたわけですね。このあと稽古は2ヶ月にもおよび、ていねいに芝居が創られていきました。この2ヶ月はおふたりにとってどのような時間でしたか?

横井:最初は、"2ヶ月もある"って思っていました。でも実際始まってからはあっという間。舞台稽古に入ってからは"足りないんじゃないか、もっとやり込みたい"って焦りました。
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松山:私、この稽古を通じて、改めて"四季の方法論ってすごい"って思いました。母音法や折れ法はこれまでの作品でももちろんやってきたけど、なぜそれが必要なのか、それを習得したらどう変わるのか、はっきりわかったんです。それが一番の収穫かもしれない。

横井:うん、本当にすごい。思い知ったよね。

松山:うん。これからも絶対にやり続けなきゃいけない大切なもの。すごく良い経験になりました。

横井:僕、途中で喉を壊して。初めて結節(声帯に生じる腫瘤)ができました。それも2つも。でもこの役を経験された敬二さんは、「2回は喉潰すから。大丈夫だよ」って(笑)。
でも声が出なかったその時の稽古を、敬二さんが「今までで一番良かったよ」って言ってくださったんです。声に頼ろうとしていなくて、しっかりとお腹で支えて気持ちで向き合ってたって。それを聞いた瞬間、"ずっと結節あったら良いのに"って思いました(笑)。
感覚を掴むことができて、すごく良い時間になりましたね。

――それにしても、おふたりとも本当に大変な役だと思います。苦労に感じたり、壁に当たったりということはありませんでしたか?

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横井:めちゃめちゃありましたよ(苦笑)。「もう無理です」って言おうかと思ったくらい。課題が多すぎて......。

松山:ライオンみたいになってたよね、頭かき回し過ぎて(笑)。

横井:もう何も分からなくなっちゃって。稽古中に、「普通でいて」って何度も言われたんです。でも分からなくなるんです、"普通"が。
今思えばその時は殻に閉じこもって異常者になろうとし過ぎたんだと思います。でもアランは異常者ではない。だから普通でいなければならない。
やっているつもりでも、そうは見えない。できていたことが、突然できなくなる恐怖が芝居にはあるんですね。
芝居はダンスと違って鏡で映して直すということではないから、"いつできるようになるんだろう"って先が見えなくて怖かった。

――その大きな恐怖や壁を、どうやって乗り越えたんでしょうか?

横井:先輩からアドバイスをいただいてやってみたことなんですけど、考えるのを止めました。まったく作品に関係のないことをするとか。
敬二さんは、「いつか分かってもらえれば良いから。僕が言えるのはここまで。あとはあなた自身で見つけて」って、待ってくださった。

松山:でも、ふと突然分かる時が来るんですよね。私も"無理だ、もう分からない"ってずっと悩んでいたことが、ふっと降りてくるタイミングがあった。周りの先輩方からも、"良くなったね"って言ってもらって、ああ、そうなんだ、これなんだって初めて分かる。

横井:「ストレートプレイ」って言うように、"ストレート"が一番良いんですよね。言葉でしか伝える手段がないから、シンプルに、ストレートに演じる。

松山:稽古中は本当にたくさん悩んだけど、私は今、この役やらせてもらえて良かったなって、心から思います。今はもう、本当に楽しくてたまらないんです。

横井:マジかー......。

―― お芝居という面でも大きなチャレンジだと思いますが、特に2幕の後半、衣裳を脱ぐ場面があり、文字通り体当たりで演じていらっしゃいますよね。この場面も大きな挑戦と覚悟が必要だったと思いますが......。

松山:"どうなるんだろう"とは思ってました。でも裸になるというのはオーディションを受けた時から覚悟していたことですから。
ただ、オーディションを受ける前は少し迷う気持ちも......。抵抗とかではまったくなく、"私、大丈夫かな?"って。
もちろんまだ受かるかなんてわからなかったけど、そのことをある先輩に相談したら、「俳優は心を裸にする仕事。心だけじゃなくて身体も裸になって演じるなんてすごいこと。俳優として必ず良い経験になるよ」って背中を押してくださったんです。
それで心が決まりました。

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横井:で、実際にやってみてすごいと思ったのが、あのシーン、僕たち自身は何にも見えていないんです。他のシーンは客席も、ステージシートも、そこに座っている共演者の姿も見える。でも唯一、あの場面だけは何にも見えない。

松山:そう! 照明が当たっているはずのダイサートの姿さえ見えない。だから私たちにとってはまさに二人だけの世界......!
だから全然恥ずかしくないんです。

横井:あの照明技術はもはや天才としか思えないよね! びっくりした。
だから本当に馬小屋で、ふたりっきりで居るような感覚。あの場面だけ、舞台じゃないみたい。

―― 改めて、この作品の魅力と、まだご覧になっていないお客様へメッセージをお願いします。
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横井:アランに潜む闇を、ダイサートが周りの人の話を繋ぎ合わせて真相に迫っていくという、一見推理小説のようなんですけど、それだけではない。家庭内のひずみ、性の目覚めなど、男女問わず、どの世代にも共感できるテーマがあって、年齢を重ねるごとに見え方や捉え方も違うんじゃないかなと思う。
それが面白い。初演から40年以上経つ作品なのに、なぜかとっても新しい。

松山:この作品は"正常とは何か、異常とは何か"というのが一つのテーマですよね。1幕では異常だと思っていたアランが、2幕では逆転していく。私は、それが日常にもあることのような気がするんです。
私はこの仕事に生き甲斐を感じています。ただ、もちろん迷うこともある。
そんな私にこの作品は、"苦悩こそが人生だ"って教えてくれているような気がして。
何が正しいのかなんて、誰にもわからない。ただ、自分が良いと思ったことを信じて選択すれば良い。
人生を考えさせられる作品だと思います。

横井:不正解なんてない。人の分だけ、選択をした分だけ正解があるんだよね。
あと『エクウス』って観た後に誰かと話し合える作品だと思う。だから家族で観に来てもらって、討論してもらいたい。3世代だったらもっと面白いかもしれないですね。

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―― 短い公演ですが、ぜひたくさんのお客様に観ていただきたいですね。興味深いお話を、ありがとうございました!


『エクウス』東京公演(自由劇場)は7月10日(日)までの限定公演。
エネルギー溢れる美しい舞台を、ぜひこの機会にご覧ください!


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