魅惑の『アラジン』

ディズニー・ミュージカル『アラジン』~魅惑の『アラジン』~

影山雄成

ニューヨークの街を歩くと大きな文字で「ブロードウェイで最もビッグな新ヒット作」と印刷された紫色の看板をよく目にする。地下鉄の構内やバスの側面など至る所に貼られ目を引くこの広告は、2014年3月20日にニューヨークの劇場街ブロードウェイで開幕したミュージカル『アラジン』のものだ。広告の宣伝文句の通り2014年にブロードウェイで開幕した62作品の舞台の中で一番のヒット作となった同ミュージカル。原作のアニメーション映画公開から22年を経て、ついに完成した舞台版『アラジン』の軌跡を辿り、その魅力に迫った。

なぜ今『アラジン』を舞台化するのかとの問いに、ディズニー・シアトリカル社のトム・シューマーカー社長は、「これまで舞台化への良い方法や切り口が見つからなかったから」と答える。大ヒットした原作映画は、物語アラビアンナイトの中での青年と王女のロマンスを描くと同時に、魔法の絨毯や魔人ジーニーが登場しアドベンチャーの要素も濃い。スピーディーに展開していく映画を舞台作品として甦らせるのは容易なことではなかったようだ。

ディズニーが『アラジン』の本格的な舞台化に着手したのは2011年のこと。米シアトルにある地方劇場とタグを組み、ブロードウェイで活躍する面々が名を連ねる製作チームを結成、同劇場の夏の演目として初演された。いわゆるパイロット版ともいえるこの上演で原作映画以上にコメディーの要素を大々的に取り入れるという舞台化にあたっての方向性が確定する。昨今のブロードウェイで流行する、笑いの多い明るいミュージカルを目指したのだ。
これまでのディズニー・ミュージカルのように、映画を忠実に具現化するだけではなく、幅広い年齢層の観客をターゲットにしたミュージカル『アラジン』が産声を上げた。
シアトルでの初演は評判がすこぶる良く、その結果、2013年にはブロードウェイ開幕が発表される。製作チームはシアトル初演とほぼ同じ。そこにディズニー・ミュージカル『アイーダ』や『リトルマーメイド』でお馴染みのボブ・クローリーが装置デザイナーとして新たにチームに加わることとなった。

2013年11月にはブロードウェイ上演に先駆けカナダのトロントでトライアウト公演(試験上演)が行われ、シアトル初演を骨子に様々な手直しが加えられ、ブロードウェイへと歩みを進めていく。豪華絢爛な舞台美術が目玉となるミュージカル・ナンバーの数々、魔法の絨毯が主人公二人を乗せたままステージ上を自在に飛び回る圧巻の場面など、視覚効果も洗練された作品がついにお披露目された。

ブロードウェイ開幕の際は作品のタイトルの下に、"ミュージカル・コメディ"と明記され、同舞台がこれまでのディズニー・ミュージカルとは一線を画していることが打ち出された。ニューヨークでのプレビュー公演が開始されたのは2014年2月26日。正式オープンとなる初日までの間も、連日手直しが加えられ、舞台装置でさえ初日の3日前まで修正が続いたという。
約5年に及ぶ"開発期間"を経て完成し、ブロードウェイで幕を開けたミュージカル『アラジン』。メディアの劇評はどれも大絶賛、辛口の評論家たちさえ挙って脱帽した。

同作品でディズニーが創案したのは、"期待以上の舞台"なのだという。ディズニー作品であるため、観客の期待を裏切らないことは当然のこと。期待していたよりも良かったと観客全員に感じてもらえる舞台を目標に掲げたのだ。そして観客の高齢化が進むブロードウェイにおいて、同作品の客層は他とは大きく異なる。新世紀世代といわれる25歳から30歳の若者が観客の半数近くを占めるのだとか。そして男性客が多いというのもこれまでのディズニー・ミュージカルとは違い、劇場街の新たな客層を開拓することに成功した。

ディズニーが立て続けにヒット映画を世に送り出した1980年代後半からの約10年間を"ディズニー・ルネッサンス"と称する。『リトルマーメイド』に始まる黄金期で、『美女と野獣』、『アラジン』、そして『ライオンキング』と続く。この一連の映画で唯一舞台化されていなかった『アラジン』がついにディズニー・ミュージカルのラインアップに加わった。開幕から半年以上が経った今でもブロードウェイの上演劇場のチケットボックスの前には連日キャンセル待ちの列が見受けられる人気ぶり。「ブロードウェイで最もビッグな新ヒット作」はこれからもニューヨークで、そして今年は日本でも観客が魅惑されるだろう。

影山雄成(かげやまゆうせい)
宮崎県延岡市出身。アメリカの「ドラマ・デスク賞」審査・選考委員を務める。年間を通し、ブロードウェイで開幕する全ての舞台、また多数のオフ・ブロードウェイ作品を観劇し、ニューヨークの演劇事情を日本に配信している。ニューヨーク在住。

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