台本/共同創作者 ボブ・ゲイル氏 インタビュー

※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2025年5月号に掲載されたものです

Photo by 阿部章仁

まず『バック・トゥ・ザ・フューチャー(以下、BTTF)』の東京公演にかかわる方々に「ようこそファミリーの一員へ」とお伝えしたいです。皆さんにはぜひただの仕事ではなく、特別な何かのパーツなのだと感じてほしい。3月に来日し、稽古や劇場での作業を拝見しましたが、すでに私の期待値を超える完成度でした。劇団四季の皆さんの献身的にお仕事に取り組む姿勢は本当に素晴らしいです。とにかく完璧な舞台を作りたいという思いを持ってくださっているのが見ていてわかります。開幕後もより良い舞台になるようにと努力を惜しまないのでしょう。とても期待しています。

これまで、もっと「BTTF」を観たいという声はたくさんありました。でも私と監督のロバート(ボブ)・ゼメキスはできうる限り完璧な3部作を作りましたから。これ以上何かやるとしたら、ただの金儲けになってしまうと考えていたんです。でも「BTTF」のミュージカル化は単純にいいアイデアだなと思いましたし、もう一つ「BTTF」を観たいと思っていた人たちの欲求も満たせるだろうという気もしました。

ただ、最初は楽勝だと思われたミュージカル化への道は思いのほか険しかった。私たちはもし「BTTF」のミュージカル版がうまくいかなかった場合、それはほかの誰でもなく自分たちの責任でなければいけないと考えていたため、このプロジェクトを自ら先導していくつもりでしたが、ブロードウェイのプロの方々はそれを許さず、彼ら主導でやりたいと言うことが多かった。でもプロデューサーのコリン(・イングラム)ら「BTTF」が大好きだと集まってくれたスタッフたちのおかげで今があります。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』© 1985 Universal Studios. All Rights Reserved.

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
4K Ultra HD+ブルーレイ: 6,589円 (税込)
Blu-ray: 2,075 円 (税込) / DVD: 1,572 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
※記事公開時の情報です。

舞台化にあたり、映画と同じようにはやれないだろうと思っていたことがいくつかありました。その一例が、ドクことエメット・ブラウン博士がテロリストに襲撃される場面。そこは一切カットし、別の形でドクが命を落としかけるというふうにしました。そして助けを求めるため、デロリアンに飛び乗ったマーティがうっかりタイムトラベルしてしまうという。なので、テロリストは登場しませんが、ドラマ性としてはなんの変わりもありません。

もう一つの大きなアイデアはデロリアンの中の時間表示器(タイムサーキット)に施しました。映画では「独立宣言の署名式を見たいか」とドクが言ったら、その日付が表示された機器がアップになりますよね?あれを劇場でやるならと考えて、そうだ、デロリアンが喋ったら観客にもわかりやすいのではと思いついた。そしてボイスアクティベーションによって作動するデロリアンになったわけです。我ながらなかなか賢い解決策だったのではと思います。なんなら映画よりもうまくいったのでは(笑)。犬が出てこないとか、スケートボードで爆走するシーンやダース・ベイダーの仮面を被って出てくるシーンがないとか細かい部分で変わっていても、ジョージとロレインがいかに結ばれたかや、ジョージがいかにして自信を得られるようになったかなど、ストーリーの本筋はそのままです。

あと、マンチェスターとロンドンの劇場では、すべてのセクションに座って公演を鑑賞しました。その席のお客様からどう舞台が見えるかを確かめたくて。すると一番高い階の一番後ろの列に座っていると時計台の文字盤が見えづらいと気付いた。そこでセリフをいくつか足して、後方席の方にも何が起きているのかがきちんと伝わるようにしました。また、映画で6~7分と短い出番ながら人気があったゴールディ・ウィルソンを「みんながそんなに好きなら」と舞台ではたくさん出してあげることにしました。

今回初の翻訳上演になりますが、トシ(日本語台本・訳詞=土器屋利行)にはマスタースクリプトの中から慣用句だったり言葉遊びの部分だったり、翻訳家として気を付けてほしいこと、わかっていてほしいことをまとめた資料を渡してあります。そして文字通り一言一句訳す必要はなく、セリフや歌詞の中身や意図を訳してほしいと話しました。観客に伝わるべきものが伝わればいいのです。

最後に、すべてのお客様にお伝えしたいのは、これが真の意味で「BTTF」だということ。決して皆さんの素敵な思い出や好きという気持ちを台無しにはしません。「BTTF」の生みの親である私が保証しますので、安心して劇場にお越しください。テクノロジーと演劇的手法とのマリアージュで頭が吹っ飛ぶ――アメリカでは驚きや興奮をこう表現します(笑)――ような体験ができるはずです。デロリアンが時速88マイルで走っているように見せるにはどうしたらいいだろう?と言ったら、デザイナーたちがそれをやってのけてくれたんですから!それにね、ロンドンではセラピーに通うよりも気分が良くなると、毎週劇場に『BTTF』を観に来てくれるお客様にも会いました。そのように皆さん一人ひとりをハッピーにしてあげたい。それこそ私が『BTTF』を通してやりたいことなのです。ぜひ劇場で素晴らしい体験をし、ハッピーになって家路についてください。

文=兵藤あおみ

兵藤あおみ(ひょうどうあおみ)
駒澤短期大学英文科を卒業後、映像分野、飲食業界を経て、2005年7月に演劇情報誌「シアターガイド」編集部に入社。2016年4月末に退社するまで、主に海外の演劇情報の収集・配信に従事していた。現在はフリーの編集者・ライターとして活動。コロナ禍前は定期的にNYを訪れ、ブロードウェイの新作をチェックするのをライフワークとしていた。