もっと知る Learn More

2022年4月30日、ついに開幕したオリジナルミュージカル『バケモノの子』。
このページでは、細田守監督、脚本・歌詞の高橋知伽江さん、演出の青木豪さんの
3人で行われた座談会を通して、作品の魅力に迫ります。

※2022年3月中旬、横浜・四季芸術センターにて実施
※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2022年6月号に掲載されたものです

左から青木豪さん、高橋知伽江さん、細田守監督

細田:映画「バケモノの子」と今回の舞台との違いは、まず歌ですよね。たとえば蓮/九太のお母さんがあんなふうに心配している気持ちを歌うことで、ぱっとすべてが伝わるみたいな。やっぱり歌っていいですね。稽古を拝見しながらそういうところに目が開かれたような気持ちになりました。歌は本編にはないので、ご苦労されませんでしたか?

高橋:そうですね。でも逆に歌、音楽の力によって飛躍することができます。お客様の心にダイレクトに届くので。私はいつも「音楽があると言葉が翼を持つ」と言っているのですが、ここぞというところは歌にしていくように創りますし、音楽と歌に助けられていると思います。

細田:しかも歌がとてもすっと入ってくる感じがして、映画から続いて使われている音楽(「祝祭」)も物語に溶け込んでいてびっくりしました。映画を見て好きになってくださった方も、自然に舞台の世界に入り込めるんじゃないかと思いました。

青木:よかったです。

細田:僕は去年公開した「竜とそばかすの姫」で初めて歌を使った映画を作って、すごく苦労しながらも、物語を表現していく上での歌の力を知ったばかりで。

高橋:あの映画も歌の力によって気持ちが繋がっていくのがリアルに感じられて、すごく感動しました。

細田:言葉だけだと「本当にそうなのか?」と疑ってかかっちゃうようなことが、歌になると信じられる、というのかな。世の中全体が疑心暗鬼になっているような、自分で自分たちの住んでいる場所を住みづらくしているような今の時代には、物語の心情みたいなものを歌に置き換えることが求められている気がします。この『バケモノの子』の音楽や歌や言葉がお客様に伝わるといいな、伝わるだろうなという気持ちです。

たくさんの人に育てられた感覚

青木:そもそも細田監督が「バケモノの子」を企画されたのは?

細田:2015年公開の映画なので、2013年の春から夏にかけてですね。

青木:じゃあ東日本大震災の後ですね。

細田:ええ。その前の「おおかみこどもの雨と雪」を製作中に震災が起こり、あれも子育ての映画だったので、こういう重い現実を引き受けながら、どうやって子どもはその世界を受け入れるんだろう?と考えていて。その問題意識が「バケモノの子」にもつながっていると思います。自分を振り返ってみると、実の父親だけではなく、先生とか先輩とか、憧れの人とか、いろんな人が父親役をしてくれて成長してきたんだろうなと。映画の現場でも「お前、それでいいのか」みたいに言ってくれる人がいたし、つまりどんな人でも誰かの親になる可能性がある。そうやって社会はできているし、その中で子どもは育っていくんだろうなと。青木さんはそういうことありませんか?

青木:おっしゃる通りですね。僕はもともと演劇オタク上がりですから、演劇界には、たくさんの"親"がいます。劇団四季もその一つ。四季の舞台に触れるのも早かったんです。だからこうして自分が観て大好きだった劇団に呼んでもらえて演出をしていると、僕を育ててくれた場所はここなんだよなって、渋天街に帰ってきたみたいな感覚ですね。

細田:やっぱりそうですよね。劇団四季の俳優の皆さんも先輩後輩とか、この人に憧れて四季に入ったといった擬似的な親子、師弟関係はきっとあるでしょうから。そういうことと重ね合わせてお芝居してくださっているんじゃないかなと想像が膨らみました。

アニメーションから飛躍した舞台を

細田:高橋さんが今回台本を書かれるにあたって、九太と一郎彦の成長、特に一郎彦に関して映画より深く描いていらっしゃるなあと思ったんですけれども。

高橋:九太の「俺と一郎彦は同じなんだ。自分が一郎彦のようにならなかったのは育ててくれた人たちのおかげだ」という台詞がすごく気になったんです。たくさんの人に育てられたことに気づいて感謝できる九太と、自分を見失ってしまう一郎彦は背中合わせ、ほんのわずかな差なんです。それを表現したいと思いました。生きていれば、自分が何者なのかと悩み苦しみ、途方に暮れてしまうこともあるかもしれない。けれども、決して、それで終わりじゃない、先に進んでいけるんだよということを若い人たちに感じてほしいと思って書かせていただきました。

細田:二人の対比が出ているのが素晴らしいですよね。僕もああすれば良かったなと(笑)。

高橋:ありがとうございます。そう言っていただけて安心しました。

細田:渋天街で育った九太が現実の渋谷に戻った時の違和感を通して、いかに我々が奇妙な都市に住んでいるかといった感覚が出るといいなと思って映画を作りました。舞台でもその境目がすごく楽しみですね。少年の九太が青年になる瞬間は『ライオンキング』でシンバが大人になる瞬間と同じような驚きとワクワクを感じさせてくださるだろうなと思いました。

青木:僕もあのシーンが好きだったので、何とか近づけないかとトライしています。

細田:楽しみです。劇団四季は1990年代前半のディズニー映画が原作のミュージカルを多く上演されていますよね。僕はあの時代のディズニー映画が大好きなのですが、舞台版を拝見するとアニメーションとはまた違う魅力があって、原作のアニメーションを超えているかのような部分があるじゃないかと、悔しいとすら感じることがあって。ですから高橋さんと青木さん、劇団四季の皆さんには、自由に舞台ならではの『バケモノの子』の世界を広げていただきたいなと。でも稽古を拝見しただけで、それはもう垣間見えているので本当に楽しみです。


細田守監督

細田守監督 ご観劇コメント

(開幕初日にご来場いただきました)

お客様と一緒に、劇団四季の皆さんの素晴らしい舞台を拝見し、感激しています。小さな九太が出てきた瞬間、「本物だ!」と思うくらい、その存在感に驚きました。
俳優さんをはじめ、舞台美術、衣裳などの美しさ。劇団四季がこれまでに培われた技術やアイディアが集約された舞台なのだなと。 皆さんの熱意、パワー、イマジネーションによって、映画の世界が驚くほど忠実に、さらに上回るほどエモーショナルに描き出されていることに感動しました。
ぜひ多くの方に『バケモノの子』を観ていただけたらと願っています。

取材・文= 宇田夏苗

宇田夏苗(うだかなえ):フリーライター。城西国際大学メディア学部専任講師。映画会社で邦・洋画の宣伝に携わったのち渡米。約8年のNY滞在中にフリーで活動を始め、帰国後はミュージカルを中心としたインタビューのほか、舞台プログラムの編集を手がける。共著に「50歳から楽しむニューヨーク散歩」(小学館)。