キャスト座談会

ベン役・邊真也たなべしんや下啓太やましたけいた
タング役・野千紘ながのちひろ田楓汰やすだふうた
エイミー役・とりはらゆきみ/村美南おかむらみなみ

東京・自由劇場での公演を終えた出演者たちに、
これまでの稽古や、京都・全国公演に向けた意気込みを語ってもらいました。

取材・文 = 三浦真紀

――新キャストを迎えての稽古場、様子はいかがでしたか。

田邊 稽古場で新キャストが苦労している姿を見ていましたが、この作品は助けてあげることもできず。(山下)啓太のベンは啓太のリアリティで演じるしかないし、(岡村)美南ちゃんもエイミーとして壁にぶち当たっているのを見て、頑張れ!と応援するしかなかったです。だから、初めて客席から観た時は、すごい!乗り越えたんだなぁとグッときました。もちろん個々には課題もあるのでしょうが、大丈夫だよ!と僕は親が子どもを見るような気持ち(笑)。ファミリーが増えて、心強いです。

鳥原 稽古場での「Free Free」のシーンでタング役のうぶちゃん(生形理菜)が泣いていたんです。その時はなぜ?と思ったけれど、客席から観たら女性の輝く姿がすごく沁みて、私もだだ泣き(笑)。意外なシーンで感動できる、この作品の多面性にびっくりしました。

田邊真也

山下 僕は初演でもベンでオーディションを受けたんです。でも落ちて、劇場で(田邊)真也さんのベンを観たら、自分には早いチャレンジだったと納得しました。今回、ベンに決まってもなかなか信じられず、稽古で僕のベンを探しながら少しずつ実感して。本番でお客様の前に立ったことで、やっとベンと『ロボット・イン・ザ・ガーデン(以下RIG)』の世界に入れた気がします。

岡村 私は初演を劇場で観て、素直にうらやましいと思いました。キャスト全員が生き生きと個性が輝いていて。すごく良い稽古を重ねてここまできたのが伝わってきて、私もどの役でもいいからその稽古場にいたいと、それでオーディションを受けたんです。

田邊 へえ、知らなかった。

山下啓太

岡村 稽古場では、お芝居の新しい感覚を学ばせてもらった気がします。スケールの大きいファンタジーではない分、各自がしっかりリアリティーを持ち、キャラクターを掘り下げることが武器になる。俳優として素晴らしい経験です。

安田 僕は劇場で拝見して、キャストの皆さん、台本と演出、作品の雰囲気、全て大好きでした。特に曲が耳になじみやすく感動的。タングは二人で操作する様子が見えるけど、良い意味で目がいかない。本当に生きているようでした。実はベンとタングのどちらを受けるか、締切の1分前まで悩んで。タングに決めてよかったです。

田邊 稽古が始まってすぐの二場くらいで、安田くんが「手が、手が......」。見ると、手が強張ってプルプル~(笑)。よくクリアしたなと思います。

長野千紘

安田 初めの頃は緊張と今日こそは決める!という思いから、タングを強く握りすぎたんです。それで薬指が痙攣けいれんしました。

長野 私も初演でやっていたからわかるけど、胴の部分の操作は本当に重労働で難しいんです。今回のタングは私が台詞を話すことが多いので私の色になりがちですが、安田くんの個性、おっとりした可愛いところを混ぜたタングを作りたくて。稽古中はしっかりコミュニケーションをとって、時には「私もできたから楓汰くんにも絶対できる!」とお尻を叩きました(笑)。

田邊 演出の小山(ゆうな)さんが二人のタングとして、安田くんのキャラクターも尊重してくれましたね。

岡村 稽古序盤で、小山さんが「芝居の不正解はあるけど正解はない」と。その一言のおかげで持っているものを全部出して、のびのびと挑戦できました。「固めるのは一番最後でいい」とおっしゃったのも、個人が自ら出してくるのを待っているからこそ。だからこのカンパニーは柔軟性が高いんだと思います。

鳥原 個性が違うキャストが配役されているのも面白い点です。デイブとブライオニー夫妻の長手慎介さんと町真理子さんはこたつみかん夫婦。ツェザリモゼレフスキーさんと宮田愛さんは海外ドラマ風(笑)。

――山下さんベンがメガネ男子なのがすごく新鮮でした。

田邊 メガネ、すごくいいと思いました。最初、自分のメガネをとり忘れたのかと思ったよ(笑)。

山下 小山さんのアイデアです。それこそ役はきちんとありながら俳優に寄り添った演出で、僕自身メガネがあると心強い。小山さんからは、「真也さんの真似でなくていいから」と何度も言われました。ベン役に挑戦するにあたり、真也さんから俳優としての技術をたくさん盗む気満々でしたが、自分らしさもしっかり出していきたい。お芝居の奥深さを改めて考えさせられましたね。

安田楓汰

鳥原 真也さんは劇団のトップランナーで、私たちとは次元の違う稽古をしていたから。その真也さんを周回遅れで私たちが追いかけた感じ。美南ちゃんのエイミーは私とは全然違う切り口で、まさに私が憧れる女性像。

岡村 ありがとうございます!ほんと、エイミーには演じて初めてわかる難しさがあります。冒頭からベンとは険悪なムードで、彼女の口からでる言葉にいかにゼロ幕(台本に描かれていない物語のこと)を表せるか。お稽古に入って鳥さんのすごさがわかったし、田邊・鳥原ご夫妻の後ろに立って勉強できたことが成長に繋がっています。

――タングは二人一役の共同作業ですが、ケンカはしませんでしたか?

長野 なかったと思います。二人だけで稽古している時に行き詰まって、今日はもうそのことについてしゃべらないでおこうと距離を置いたことはありました(笑)。

安田 そうですね。千紘さんからは、経験したからわかる具体的なアドバイスをたくさんいただきました。だから、タングの構造に慣れてコツをつかむのは、比較的早かったかと。

長野 その分、タングの喜怒哀楽に合わせた歩行や呼吸への注文が多かったかも(笑)。一方私は操作する場所が変わったので、今までの感覚を捨てスタートに戻ること、そしてそこから新たに頭を操作するパペティアの感覚をつかむことがとても難しかったです。

鳥原ゆきみ

鳥原 稽古場で「ちーちゃん、今日すごくよかったよ」と褒めたら、「できないのが悔しい」と泣き出して。初演時同様、またゼロからやって苦しんでいる。偉いなぁと思いました。

山下 タングが3組ともそれぞれ個性的なことは、毎回、新鮮に演じる助けになっています。

田邊 (渡邊)寛中くんが本番中、上手く足が出なかったと落ち込んで、生形が「気にしない方がいい」と言ったら、寛中くんが「劇団四季は一音落としちゃいけない。僕らタングにとっての一歩は一音なんだ」と言ったんだって。

全員 うわぁ、かっこいい!

田邊 タングは全神経を集中して身を削ってやっているんだと、それからますますタングが好きになりました。

――最後に、京都・全国公演への意気込みとお客様へのメッセージをお願いします。

田邊 完走したいし、そういう世の中になってほしいです。今回、ファミリーが増えて楽しいのはもちろん、切磋琢磨せっさたくまをしたい。全国の皆さん、僕らと一緒に『RIG』の世界を旅しましょう!

山下 全国を回りながら常に成長し、挑み続けたいです。この作品の素晴らしいところは、自分の日常や人生をふと思い返すような、小さい感動をもたらしてくれるところ。ぜひ足をお運びください。

長野 タングの細部にまで命を宿せるよう二人で息を合わせていきたいです。悩みや欠点があると負のイメージを抱きがちですが、それも自分の一部。〝傷さえも生きている証になる〟という歌詞のメッセージの通り、今の自分を肯定できるように背中を押してくれて癒される、絆創膏ばんそうこうのような作品です。

安田 タングの動きに新しい可能性を追求していきたいです。僕は京都出身なので地元の方々に観ていただけるのが嬉しくて。配信で観ていただいた方々には、生でご体験いただきたいです。

岡村美南

鳥原 エイミーは今までの四季の作品には珍しいタイプのキャラクター。女性ならではのリアルさなど多面性を表したいです。この作品は大きな花束ではなく、小さな種を植えてお客様のタイミングで芽吹かせることができる、そのくらい身近なテーマが魅力です。全国の皆様に小さな種をお届けしたいです。

岡村 地方出身者として劇団四季のツアーを待つ気持ちがよくわかるので、オリジナルミュージカルをお届けできるのが楽しみ。きっと身に覚えのある感情や葛藤を感じていただけるでしょう。劇場でこの作品の持つ温かさを感じてください。

撮影=阿部章仁