映画監督×舞台演出家 対談

ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』と同じ原作から作られた、映画「TANG タング」。
監督の三木孝浩さんは『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の
演出家である小山ゆうなさんと早稲田大学の演劇サークルで同期だったという。
縁のあるお二人が今回、約25年ぶりに再会し、語り合った。

取材・文 = 三浦真紀

※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2022年8月号に掲載されたものです

――まず舞台と映画、お互いの作品をご覧になった感想を教えてください。

三木孝浩

三木 僕は「TANG タング」を作るにあたり、ファンタジックで寓話的、少しデフォルメされた世界観をイメージしていたんです。ミュージカルも思いを歌にしたり、外国人の役を日本人が演じたり、ある種、いろんな物事をデフォルメするメディア。そのデフォルメの仕方を参考にできたらと思い、観劇させていただきました。すると、本当に素敵な舞台で、特にタングの動かし方に惹かれましたね。二人の俳優がタングを動かすことに意味があるように感じて。一人だけだと、一人の感情が乗っかりすぎてしまう気がするけれど、二人でだからこそどちらでもないタングというキャラクターが浮き立つ。二人の俳優を意識しないで観られるのが舞台版の面白さだと思いました。

小山 映画を観ているうちに物語に引き込まれて、同じ原作なのに違う作品だなと感じました。タングにしても、映像ならではの魅力がふんだんに詰まっていて。私たちも舞台を作った時に、例えば目が光るようにできないかな?などすごく話し合ったんです。だけど舞台だと見えづらいし、機器を入れることでパペットが重くなってしまう。その点、映像だとできることが多いなって。また舞台を日本に置き換え、「ベン」が「健」になるなどキャラクターが日本人の設定になったことによる発見もありました。

――舞台化、映画化にあたって悩んだ点は?

小山 タングが歌うかどうかは悩みましたね。ミュージカルの歌は基本的に隠れた気持ちを吐露する場合に歌われるもの。ところがタングには隠されているものがないんです。クリエイター同士でもよく議論され、その結果、周りの人々が歌い、タングはあまり歌わないことになりました。このようにミュージカルとしてどう成立させていくのかは、稽古の段階でも試行錯誤がありました。

――タングが歌う「砂の街のカイル」、あの曲も言われてみればタング自身の思いではなく、カイルの思いの代弁ですね。

小山ゆうな

小山 そうなんです。とはいえ、タングが歌い、お客様がドキッとするふうにしたかったから、どのタイミングがベストなのかを時間をかけて決めました。映画のタングは?

三木 タングは3DCGなので、現物がなく、現場にもいない。そこは舞台と大きく違います。つまり俳優もカメラマンも、そこにいるであろうタングを想像しながら撮影するわけです。声は事前録音したものを流しますが、動きの見えないタングに対してどうお芝居するのか。みんなで共通のビジュアルイメージを想像し、足並みを揃えることはすごく大変でした。普段はやらないのですが、今回はアニメのように全カットの絵コンテを描きました。

小山 主人公・健役の二宮和也さん、タングがいないのに感情表現がすごいなぁ!と感動しました。

三木 ほんと、いないところに向かって演じていますからね。

――タングの姿形や動きはそれぞれ違う魅力があります。タングの表現での工夫を教えていただけますか。

三木 舞台を観て、大きさをどうするかはすごく悩みました。客席ではちょうどいいサイズに見えましたが、実際に近づいて見たら、思ったよりデカい(笑)。実写はサイズが大きいと苦労が多いので、なるべく小さくしたんです。舞台のタングはどうやってサイズを決めたのですか。

小山 パペットのデザインとディレクションを務めるトビー・オリエさんがパターンをいくつか出してくれて、それをもとに小道具さんが紙を切り抜いて平面のタングを作り、実際に何回か劇場で検証しました。客席から見えるか、目の動きまでキャッチできるか、俳優と程よいバランスになっているかなどを試しました。

三木 映画だとクローズアップできますけど、舞台はまず見えることが大事ですよね。あと難しかったのが、タングの感情をどこまで見せるか。こういうキャラクターって、ある種、能面のように、観客が想像する楽しみもあると思って。特にタングは人ならざるものなので、観客がタングは今どう思っているんだろう?何をしたいんだろう?と想像できるほうが楽しいかな、と。でも感情を出さなすぎると可愛くないし。目の色の変化や、感情が動いた時に何が動くのかという設定にも苦労しました。

――歩き方も舞台のタングはガシャッガシャッと重力と不器用さを感じ、映画のタングはトテトテと歩く感じが面白いです。

三木 そうそう、歩くスピードも考えました。特に、健とタングが並んで歩くシーン。タングはなんとなく6、7歳ぐらいの男の子の身長で、歩き方もたどたどしくしたんです。

小山 舞台のタングはもう少し幼い感じですね。

――舞台が映画に影響を与えたところはありますか。

三木 舞台のタングの首がビヨーンと伸びるところが大好きで、そこは映画のタングに活かしています。それから秋葉原のシーンですね。日本人が作りながらも、海外の人が見た東京の、オリエンタルでデフォルメされた世界観がいいなと思って。映画は日本が舞台ですが、リアルな日本ではなく、ちょっとアメリカンな雰囲気。そして近い未来の話でありながらレトロでアンティーク感のある世界観を目指しました。例えば、健の住む住宅街は映画「シザーハンズ」のイメージ。そのあたりのデフォルメの仕方は、舞台を参考にさせてもらいました。

――反対に、小山さんが映画を観て、すごいなと思ったところは?

小山 やはり映像でしかできないことに感動しましたね。私が好きだったのは、タングが健にコーヒーを買ってくれるシーン。二人の関係性がよくわかるとても素敵なシーンです。また、映画ならではのスリリングなシーンもあって、ドキドキを味わいました。

――改めて、タングの魅力は?

三木 何もできないところ。なんにもできないから愛おしいんですよね。「ドラえもん」みたいに助ける道具を出してくれるわけじゃなく、ただそばにいてくれる。よくペットの犬とか猫に話しかけたりするけど、結局それって自分と対話している感じになったりして、タングを見つめることが自分を見つめることになる。そんな何もできないところが僕はすごく好きです。

小山 舞台のタングはゆっくりしか動けないし、できることも少ない。稽古場で、タングが舞台に登場したり引っ込んだりするのにすごく時間がかかることがわかり、お客様を待たせるの?どうしよう?となって。でも、タングのゆっくりさに価値観を合わせてみることで、普段見えないものに立ち返り、気づきを得られるんじゃないかと。ぜひ映画で、舞台で、そんなタングと出会っていただきたいです。

撮影=上原タカシ