『ゴースト&レディ』演出 スコット・シュワルツさんインタビュー

本作で演出を手掛けるスコット・シュワルツさん。
4月上旬に一時来日し、台本内容の検討ワークショップを行うなど、創作現場は熱気を帯びています。
今回の滞在プログラムを全て終えたスコットさんに、作品にかける思いをうかがいました。

※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2023年5月号に掲載されたものです

ミュージカルにふさわしい物語を劇団四季と

撮影=上原タカシ

本作の演出をオファーされて、すごく嬉しかったです。なぜなら、『ノートルダムの鐘』で劇団四季の皆さんと初めてお仕事をさせていただいた時、本当に素晴らしい時間を過ごすことができましたから。今回、新作ミュージカルで四季の皆さんはもちろん、国内外の優秀なクリエイティブ・スタッフとご一緒できる機会をいただき、非常に光栄に思っています。
初めてこのプロジェクトのお話をうかがった際、原作漫画も読ませていただきました。まず、絵の素晴らしさに心を動かされ、そのアーティスティックな部分とオリジナリティーあふれるストーリーが同時に楽しめることに感心しましたね。フローレンス・ナイチンゲールという、医療の歴史において今もなお非常に重要な人物である女性の物語を、ゴーストというファンタジーの要素を絡めて描く。その奇抜で予期せぬ語り口に、私自身、強く興味を引かれ、「これはミュージカル作品になる題材だな」と感じました。

どんなミュージカルでも物語の中に歌が出てくるだけの理由が必要で。その理由がないと「これ誰の、なんの歌?」となってしまいます。その点、ナイチンゲールの90年にわたる長い生涯において、本作でフォーカスされるクリミア戦争の時期というのは特筆すべき出来事のオンパレードで。彼女の感情も大いに揺れ動きます。おまけにゴーストとの関係性などユーモア、スリル、ロマンス、アドベンチャーといった要素が満載で歌う理由に事欠かないんですよ。
舞台化にあたってのハイライトをいくつかご紹介しますと、まず原動力となる二つの筋。一つは、看護というものに対するナイチンゲールの愛と、その愛がいかに看護というものを変えたかという話。そしてもう一つの筋が、ナイチンゲールとゴーストの関係。これは非常に情熱的かつロマンチックなストーリーになると感じています。次に、素晴らしいメロディーをもった楽曲たち。富貴晴美さん(作曲・編曲)と高橋知伽江さん(脚本・歌詞)の手による、一度聴いたらずっと鼻歌で歌ってしまいたくなるような、そんな楽曲がそろってきていると思います。
さらにスペシャルエフェクトですね。神出鬼没のゴーストたちをいかに表現するか。イリュージョンを担当するクリス・フィッシャーはステージマジックの世界的エキスパートなので、始終観客の皆さんをワクワクさせてくれるはずです。また、ウェストエンドの劇場やヴィクトリア調の屋敷、トルコの野戦病院に戦場と、いくつかの場所やロケーションが出てきますが、どれも松井るみさんが手掛ける舞台装置によって見ごたえあるシーンになるはず。
最後に、肝心の演出的アプローチですが、作品のトーンを正しく描き出したいなと。19世紀、むごい戦争が起きていた時代背景とナイチンゲールという実在の人物。そこにあったシリアスさやダークさ、真実といったものを尊重しつつ、エンターテインメントならではの楽しい部分も同時に表現したい。そのバランスをうまく見つけつつ、さらに演劇ならではのツールを駆使し、壮大なスケールの物語を舞台化していきたいと考えています。

ゼロから舞台を創り上げる楽しみに満ちた今

リーディングワークショップでの様子

『ノートルダム~』はアメリカで制作したプロダクションをブラッシュアップする形で日本で上演しましたが、今回は四季の皆さんや新たなクリエイティブ・スタッフとゼロから舞台を創り上げています。「こんなことができる!」と非常に役立つアイデアがどんどんと出され、それらが作品に盛り込まれていく。優秀な皆さんの才能を間近で見られることは喜びですし、「作品を最善のものにしよう」とみんなで同じゴールに向かって仕事をしている今、この時が素敵でなりません。4月上旬に行ったリーディングワークショップやデザイナーたちとの打ち合わせでも、作品の持つ勢いやエネルギーを体感でき、大いに手ごたえを得られました。実際に稽古場に入り、皆さんと作品を創り上げていく工程が今から楽しみで仕方ないんですよ。

今年の秋にはキャスティングのため、再び来日予定です。今回本当に多彩でパワフルな楽曲がそろっていますので、しっかり歌で表現できるキャストが必要。また、彼らには『ノートルダム~』と同様にお芝居に深くアプローチし、複雑さをものともせず、いろいろな色味を見せてほしいと思っています。例えばゴーストのグレイを演じるにはユーモアのセンスが不可欠。ただ不機嫌に見えるのではなく、皮肉屋だからこそみたいな部分が提示できる俳優さんにお願いしたいですね。対するナイチンゲールは、感情の幅も音域の幅も広くカバーできないと務まらない、まさにミュージカルならではの大役。それにふさわしい、観終わった観客が「すごかった!」と感嘆の声を上げるような人を配したいと思っています。才能あふれる四季の俳優の方々のことですから、本作でも一つひとつの役を生き生きと、スリリングに演じ、素晴らしいパフォーマンスを披露してくれるはずと期待しています。ダンスナンバーや動きのあるシーンもたくさん出てくるので、それらは『ノートルダム~』でもコラボレーションした親友で振付家のチェイス・ブロックと話を進めているところです。
来年5月の開幕を心待ちにしている観客の皆さんには、ロマンスあり冒険ありの物語と素晴らしい楽曲、ユーモアやマジックもふんだんに盛り込まれたステージを存分に楽しんでいただけると確信しています。ぜひ劇場でお会いしましょう。

演出スコット・シュワルツ

数々の賞を受賞しているアメリカ・ニューヨーク生まれの演出家。2015年、ラ・ホイヤ劇場とペーパーミル劇場で上演された『ノートルダムの鐘』米国初演で演出を担当。手掛けたブロードウェイ作品としては、『Golda's Balcony』、ジョン・ケアードと共同で演出を担当した『ジェーン・エア』、オフ・ブロードウェイ作品としては『バット・ボーイ・ザ・ミュージカル』『チック・チック・ブーン!』『The Foreigner』『Rooms』『カフカの「城」』『No Way to Treat a Lady』、ウェストエンド作品としては『プリンス・オブ・エジプト』、その他に『ビッグ・フィッシュ』韓国公演がある。ニューヨーク・シティ・オペラでは『雨の午後の降霊祭』のワールドプレミアを演出。オフ・ブロードウェイ作品である『マーダー・フォー・トゥー』は大阪と東京でも上演された。またニューヨーク州サッグ・ハーバーのベイストリート・シアターの芸術監督も務める。
彼が演出を務めたミュージカル『ノートルダムの鐘』は、ヴィクトル・ユゴーの原作がもつシリアスな印象を重要視し、人間誰もが抱える"明"と"暗"を繊細に描いた、深く美しい人間ドラマ。四季公演も初演以来、熱い支持が寄せられ、再演が繰り返されている。

インタビュー=兵藤あおみ

兵藤あおみ(ひょうどうあおみ)
駒澤短期大学英文科を卒業後、映像分野、飲食業界を経て、2005年7月に演劇情報誌「シアターガイド」編集部に入社。2016年4月末に退社するまで、主に海外の演劇情報の収集・配信に従事していた。現在はフリーの編集者・ライターとして活動。コロナ禍前は定期的にNYを訪れ、ブロードウェイの新作をチェックするのをライフワークとしていた。