※「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2024年7、9月号掲載
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ミュージカルには様々な鑑賞の仕方があります。私は、「黒博物館 ゴーストアンドレディ」の愛読者として観に行きました。紙の上の物語として表現された原作のエッセンスを、2次元から3次元へ大切に運び、文字と絵から舞台と音楽へ、舞台の裏で支える専門家たち、演奏家、舞台の俳優さんたちすべてが結集して、観客も巻き込んで、大劇場を一つにしていました。本当に素晴らしい舞台で、思い出すと胸が高鳴ります。
紙にインクで書かれた物語には、何度も読みたくなり読むたびに新しい発見があるものがあります。この舞台のパフォーマンスも同じで、友人と2階席から再度この素晴らしい舞台を観る予定です。英語版やイタリア語版もある原作のように、四季の『ゴースト&レディ』が世界へ広がることを夢見ながら。
プロフィール:東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻所属。イギリス・ロマン主義文学を専門に研究。「対訳 シェリー詩集」(岩波文庫)の翻訳・編集を手掛ける。
四季劇場[秋]2階席から舞台を見た時、英国ドルーリー・レーン王立劇場のバックステージツアーで、幽霊グレイが出現するという席からの眺めが重なりました。公演が始まると、グレイとフローが確かにそこにいました。
「黒博物館 ゴーストアンドレディ」の一ファンとして、舞台化でグレイの「劇場にいる幽霊」というルーツが際立ち、原作を含めた「新しい物語」とした描き方に感服しました。原作ではフローを中心に語る私が、今はグレイを中心に語っていることが、その証明です。
見終えた後、もしも『ゴースト&レディ』がグレイのいる英国の王立劇場で上演されたら、彼がどんな顔で観劇するのかと想像しました。そんな未来の実現を願っています。
私がこれまで最も衝撃を受けた『ノートルダムの鐘』のスコット・シュワルツさんが演出されたなんて、おもしろくないわけがありません。息子と一緒に劇場に足を運びましたが、ただただ圧倒されました。いつも我々の想像をはるかに超える驚きや感動を届けてくださり、感服します。
フローがラストで慟哭(どうこく)する場面や、愛と優しさに包まれたエンディングの演出には痺(しび)れました。それぞれの過去に閉じ込められていた深い情念が混じり合い、うねりとなって優しく溶け合う美しさ、心に紡がれるその絆は、涙が溢(あふ)れるほど抒情(じょじょう)的で胸に迫ります。時代の混乱を乗り越え、死をも厭(いと)わず使命を果たそうとするフローの気迫溢れる覚悟と情熱の気高さに心を動かされ、私も自らの人生を生きる力と勇気をいただきました。
何度でも堪能したい最高傑作がまたここに生まれたこと、この作品に出会えた喜びを心の底から感じています。
親子で心を震わせ、感動を共有した時間はかけがえのない宝物です。ママの手をぐっと握りしめながら泣くのを堪えて肩を震わせていた息子の横顔を、私は一生忘れません。
漫画「黒博物館 ゴーストアンドレディ」で凄(すご)い!と思ったのは、ヒロインがナイチンゲールである、ということだった。世界の有名人。その女(ひと)が劇場の幽霊グレイを訪ねて来る。名乗るだけで抜群のインパクトである。舞台化で、生霊をどう演出するのか興味があったが、生霊要素をある意味潔く割愛した分、逆に物語の骨格の秀逸さに改めて気づかされた。対立構造の明確さ、敵役はあくまで恐ろしく、対するナイチンゲールの激しい正しさ清らかさは痛快である。愛すべきヒロインを応援し心配し、グレイとの極上のラブストーリーに涙が止まらなかった。カーテンコール含め、本当に面白い、心に残る舞台だった。ぜひ多くの人に観て、語っていただきたいと思う。
フローとグレイの二人を迎えて、劇場が喜んでいるのがわかる。
たとえば、幕間のひととき。新作を待ちわびていた皆さんが未知のストーリーに思いを馳(は)せて「この後どうなるんだろうね」「待って。知っていても言わないで!」「原作も読んでみたい」と話す声が聞こえてくる。
終演後、グッズ販売に開演前より長い列があんなにもできるのも、きっと、最後まで物語を見届けたことで、観客の皆さんが心からこの舞台に魅せられ、フローとグレイを大好きになったからなのでしょう。同じ舞台を共有したものとしての幸せ、演劇を見るということの喜びそのものが、その日、劇場にありました。
『ゴースト&レディ』は夢の中にトリップしたような幻想的な光と物語で、音楽にまるで色がついているようにくるくるキラキラ届く生の歌声の素晴らしさ、大傑作のミュージカルに感激しました。
フローの美しさ! 芯が強く凛とした、だけど困った表情が可愛くて綺麗(きれい)で、一気にファンになってしまいました。あんなにたくさんの歌を感情込めて届けてくださる喉と体力の強さを尊敬しています! 誰かのためにあそこまで献身的に尽くせるフロー、大切な人のために全てを賭けることができるグレイの想い、せつなくも意外なラストの展開と美しさは人生に刻まれる圧巻の世界でした。本当に綺麗だったフロー、あのお顔と喉に生まれたかったです。
一度の観劇で、私の好きな劇団四季の演目トップ3に入りました。強い信念を持ち、過酷な道を歩むフローを、時には笑いながら応援できたのは、グレイという信頼できるパートナーがいたから。どうかラブストーリーとしてのハッピーエンドを、と願ったのですが……。それでも感動の涙があふれたのは、二人の絆が、離れていても通じ合う魂と魂の結びつきだと感じることができたから。物語から受け取った希望を、自分もがんばろうという元気につなげることができる、本当にすばらしい作品でした。また、会場には老若男女さまざまな観客の姿があり、フローが照らした明かりにミュージカルの未来が導かれているように思えました。
劇団四季の新作オリジナルミュージカル。藤田和日郎の人気漫画を原作に、「ノートルダムの鐘」を手がけたスコット・シュワルツを演出に招いた。脚本・歌詞は高橋知伽江、作曲・編曲は富貴晴美という近作「バケモノの子」でもおなじみのコンビ。実績豊かな製作陣をそろえた劇団の意気込みが感じられる。6日の初日舞台を実見し、期待は裏切られなかった。
フローレンス・ナイチンゲール(フロー)が天命に従いクリミア戦争の野戦病院へ赴き、さまざまな困難に立ち向かいながら愛を見つける物語。強い意志を持つ自立した女性であるフローは現代性を帯びているものの筋立ては古典的。が、劇場に住む芝居好きのグレイという名のゴーストを、フローの相棒として対峙(たいじ)させることで奥行きがグンと広がる。演劇が内包するマジックが加わるのだ。客席と劇世界の境界線が消え始め、「この世は舞台」となる。松井るみの装置デザインも今作ならではの魅力に大きく寄与する。
奇をてらわず、英国の民族音楽などを巧みにとり交ぜた富貴のスコアがしっかりと作品を支える。フローとグレイのデュエット「不思議な絆(きずな)」をはじめメロディー性豊か。自然に登場人物の心へ、こちらの心を重ね合わせられる。未知の土地へと向かうフローと看護師たちの「走る雲を追いかけて」の前進力にも心躍る。フロー役の谷原志音、グレイ役の萩原隆匡はともに、内面のドラマチックなうねりから静かな叙情まで十全に表現。アンサンブルも含め、出演者全員の盤石な歌唱力あってこその好舞台だ。
すべての幕が下りた時、信じる力、希望を持つ力、そして愛する力の尊さが、客席全体に降り注ぐ。人が生きるよりどころとなる三つの力を、今作は与えてくれる。11月11日まで、JR東日本四季劇場「秋」(東京・竹芝)
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