共同創作者/原作映画監督 ロバート・ゼメキス氏 インタビュー

※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2025年7月号に掲載されたものです

Photo by 阿部章仁

―2005年に監督が奥様と台本のボブ・ゲイルさんと一緒にブロードウェイで『プロデューサーズ』をご覧になった際、奥様から「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下、BTTF)はミュージカルにならないの?」と聞かれたのが、舞台版の始まりと伺っています。そもそも監督はミュージカルがお好きで、よくご覧になるのですか。

何でも観るというわけではありません。良い作品に出会えたら、とても楽しめるといった感じ。ミュージカルという芸術形式自体は大好きで、素晴らしいと思っています。

―具体的にミュージカルのどんなところに魅力を感じますか。

音楽の役割でしょうか。映画で用いるよりも登場人物の心の奥底に入り込むことができ、心情などがより真実に近い形で表現できると思います。映画で登場人物の心の中で起こっていることを表現するのは本当に難しいですから。あと映画では二次元でしかないものを、ミュージカルは三次元にできるのも魅力ですよね。
「BTTF」をミュージカル化するにあたっても、かなり初期の段階で「やはり大事なのは音楽じゃないか」という話になりました。そして音楽を手掛けたアラン・シルヴェストリやグレン・バラードとともにいかに音楽を使って物語を進めたり、キャラクターを深く掘り下げたりできるかを模索していった。おかげでキャラクターをより複雑に描け、映画以上に物語を高められたと思っています。

―ミュージカル化のプロセスを実際に体験されていかがでしたか。

舞台が形になっていくのを見るのは、とてもワクワクして爽快な気分でした。もちろんワークショップは良いことばかりではなく、問題点が浮き彫りとなれば、その解決策を模索する必要がありました。「あれはカットした方がいい」とか「これは直した方がいい」とか、私が意見を出したことも。「CAKE」という、主人公のマーティが1985年から55年にタイムトラベルした後、街の人たちがその暮らしぶりを歌うナンバーがあるのですが、その曲の代わりに別のものが入っていたことがありました。「あそこはもっと50年代の生活を皮肉ったような曲にした方がいいんじゃないか」と言ったのを覚えています。そして「CAKE」が出来上がってきたんです。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』© 1985 Universal Studios. All Rights Reserved.

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
4K Ultra HD+ブルーレイ: 6,589円 (税込)
Blu-ray: 2,075 円 (税込) / DVD: 1,572 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
※記事公開時の情報です。

―ミュージカル化にあたって譲れなかったことや大事にされたことはありますか。

そうですね、唯一守らなければならなかったものは物語のエッセンス。描くべきテーマや、登場人物は全員そのままにすることに決めていました。それ以外は必要に応じて調整できますから。つまり、舞台でうまくいきそうなものはそのままにし、うまくいきそうにないものは調整するといった感じでした。そうしたプロセスを経て、ミュージカルには映画よりもずっと楽しい要素がたくさん生まれました。例えば、高校でビフがジョージを追いかけ回すシーンなどです。

―舞台でデロリアンを時速88マイル(約140キロ)で走らせる必要もありました。

それこそミュージカル化しようと思った時の最大のチャレンジでした。実現するために使われたさまざまな舞台技術やイリュージョンはエキサイティングの一言で、その舞台技術とパフォーマンスの美しい融合は本当に見ごたえがあると思っています。映画はあくまでイリュージョン(幻想/錯覚)。舞台のイリュージョン(魔法)ほど壮大なものはありません。だって、観客はまさにその場で起こっていることを目の当たりにできるのですから。私は舞台のイリュージョンにすっかり魅了されました。

―「BTTF」のミュージカル化を存分に楽しまれ、成功を喜んでいらっしゃるかと思います。これを機に、ほかの作品もミュージカルにと考えていらっしゃいますか。

ええ、もちろん!「ポーラー・エクスプレス」は素晴らしいミュージカルになると思いますし、「ロジャー・ラビット」も舞台でイリュージョンが映えるでしょうね。まさにスペクタクルといった感じで。とはいえ、まずは『BTTF』を世界中で上演したいと思っています。

―最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

私は日本の皆さんや日本の文化が大好きです。そして、私の作品が日本の皆さんに愛されているのはこの上ない喜びです。私も日本公演の開幕に立ち会い、実際にプロダクションを拝見しましたが、演技や歌、ダンスなど、すべてにおいてとにかく素晴らしい出来でした。もう全部が完璧と言っても過言ではありません。非常に誇らしい思いで観劇しました。きっと日本のお客様もビックリすることでしょう。そしてこのミュージカル『BTTF』に恋すると思いますよ。ぜひ劇場で楽しい時間をお過ごしください。

文=兵藤あおみ

兵藤あおみ(ひょうどうあおみ)
駒澤短期大学英文科を卒業後、映像分野、飲食業界を経て、2005年7月に演劇情報誌「シアターガイド」編集部に入社。2016年4月末に退社するまで、主に海外の演劇情報の収集・配信に従事していた。現在はフリーの編集者・ライターとして活動。コロナ禍前は定期的にNYを訪れ、ブロードウェイの新作をチェックするのをライフワークとしていた。