作詞・作曲 グレン・バラード氏 インタビュー

※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2025年8月号に掲載されたものです

Photo by 阿部章仁

まず『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下、『BTTF』)といえば、アラン・シルヴェストリが映画版に書いた「ターッタラ、ラタタタ~、(1オクターブ上がって)パパーッ、タララタタタ~♪」っていう、あのテーマソング。史上最高のスコアの一つですよね。だからアランと私は最初にあのテーマを元にしてショーのオープニング曲を作ることにしました。作品の生みの親であるロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルに『BTTF』がミュージカルになり得るんだと納得してもらう必要もありましたから。そして出来上がったのが「IT'S ONLY A MATTER OF TIME」。出来上がった同曲をロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルに渡すと、彼らは「続けて」と言いました。そこからおそらく30曲、その後さらに20曲ほど書いたかな。私たちはすべての登場人物に対して歌を書こうと考えていたので、キャラクターごとに2~3曲ずつ書いて、最終的に1曲に絞り込んだ感じです。ちなみに「IT'S ONLY A MATTER OF TIME」が歌われる最初のシーンでは、有名なテーマに乗って主人公マーティ・マクフライの人となりが紹介されます。相棒のドクことエメット・ブラウン博士は後々デロリアンと一緒に一人ど派手に登場しますのでお楽しみに。

アラン・シルヴェストリはカリフォルニア州カーメル、私はハリウッドにそれぞれ住んでいるんです。創作期間中はファイルをやり取りし、時々彼がハリウッドにやって来て数週間一緒に過ごしました。アランとの作業はまるでテニスのようでしたね。私がサーブを打ったら、相手が打ち返し、それがものすごいショットだったら、こちらも全力で返すという感じで。アランは音楽で物語を語る名手なんです。常に「この曲でストーリーがちゃんと前に進んでいるか」ということを気にかけていた。ドラマターグ(舞台の創作現場で、作品の理解を深めるための助言や調整等を行う)のような役割も担ってくれて、楽曲制作における最高のコラボレーターでした。

我々クリエイター陣には"過去に遡って両親と会う"という、『BTTF』のものすごく印象深いコンセプトを具現化する責任がありました。面白いのは、映画の台本から舞台用に物語を作り上げていく過程で、これは完全に2幕もののミュージカルに適していると気付いたことです。1幕は1985年から始まり、物語が進むにつれて1955年へと遡り、また1985年に戻ってくる。つまり、一つの物語の中に二つの独特な音楽文化が存在するのです。ただ、我々の偉大な演出家であるジョン・ランドは当初から「一つの場面で1曲しか使わない」と言っていました。曲を作る私たちにとっては大変なことでしたが、彼は完全に正しかった。なぜなら、それは一種の口直しの連続というか。コース料理のように「次は何が出てくるのだろう」といったワクワク感が生まれ、とても良い試みだったと思います。例えば同じ50年代を舞台にした曲でも、ロレイン・ベインズが歌う「PRETTY BABY」はまさに50年代らしいもので、ドクが歌う「21ST CENTURY」ではハイテクかつモダンな音楽を取り入れるといった感じです。

とはいえ、さまざまなタイプの楽曲がただランダムに出てくるわけではありません。ティム・ハトリー率いる素晴らしいデザインチームによって視覚的にもサポートされ、50年代に行ったらそれらしい雰囲気が味わえるようになっています。マーティが1955年のヒルバレーにいることに気付き、そこを歩いている時に歌う「CAKE」などは、最も伝統的なブロードウェイ・スタイル。古き良き時代の生活様式が盛り込まれ、皮肉も効いているでしょ? タバコもあり、なんでもOKってね。確かに50年代はそういう時代でした。皮肉といえば、「21ST CENTURY」はうってつけの曲だったと思います。ボブ・ゲイルとは事前に「昨日の未来ほど時代遅れなものはない(There's nothing so dated as yesterday's version of the future.)」という諺(ことわざ)についてじっくりと話し合ったんです。そして、未来予測がすべて間違っているという曲を作ろうとなった。映画には出てこない部分ですが、みんながいいアイデアだと言ってくれたのでドクの夢として出してみることにしました。2幕のオープニングを飾る意味で、結構なパンチを利かせて観客に届けようという狙いもありました。

また、本作はニック・フィンロウのオーケストレーションも素晴らしくて。映画時は130人編成のオーケストラでしたが、舞台版は14人編成。音の重厚感を損なうことなくアレンジするのは大変だったと思いますが、うまく乗り越えたとも感じています。四季版のオーケストラの皆さんの演奏も感動的でした。彼らは奇跡のように壮大な音を奏でてくれています。観た後すぐにアラン・シルヴェストリに連絡し、「きっと君も気に入るよ」と伝えました。あと四季の劇場も大好きです。音響設計が優れていて、本当に良い音でした。もちろん、ショー自体素晴らしい出来で、ロバート・ゼメキスやボブ・ゲイル、私を含め、ショーを創作した全員が「最高のプロダクションだ」と言っています。私が特に気に入ったのは、舞台上の誰もが一瞬でも気を抜いていないところ。たとえセリフがなくても、全員がそのシーンにとって不可欠な存在だと観る者に感じさせるのです。それを実現するには非常に繊細なアンサンブルが必要で、おのおのが自分の役割に没頭している。本当に素晴らしいです。なんなら、今いるビルの屋上から街中に向かって「皆さん、ショーを観に来てください!」と自信を持って大声で叫ぶことができます。そんな想いでいられることが嬉(うれ)しくてなりません。

文=兵藤あおみ

兵藤あおみ(ひょうどうあおみ)
駒澤短期大学英文科を卒業後、映像分野、飲食業界を経て、2005年7月に演劇情報誌「シアターガイド」編集部に入社。2016年4月末に退社するまで、主に海外の演劇情報の収集・配信に従事していた。現在はフリーの編集者・ライターとして活動。コロナ禍前は定期的にNYを訪れ、ブロードウェイの新作をチェックするのをライフワークとしていた。