※記事は「四季の会」会報誌「ラ・アルプ」2025年9月号に掲載されたものです
Photo by 荒井 健
プロデューサーのコリン・イングラムから電話で「バック・トゥ・ザ・フューチャー(以下、BTTF)」の舞台化について聞かされた時、過去最高にクレイジーな企画だと思いました。実現するには膨大な資金と創造性が必要だろうなと。でも同時にとても興奮したのを覚えています。そして、招待されたジョン・ランド演出のワークショップで素晴らしい俳優陣による歌唱を耳にし、舞台化への関心が一気に高まりました。その次のワークショップにはタイミングが合わず行けなかったのですが、当時照明デザイナーとして参加していたヒュー・ヴァンストーンから電話で「このショーは本当に本当に素晴らしいから、君も絶対に参加したほうがいい」と言われ、心が決まりました。そこからは早かったですね。どんどんデザイン案を出し、仕事を進めていきました。
デザイン上、本作で最重要とされたのはスピード感。最初にボブ・ゲイルから受け取った台本はとにかくシーンチェンジが多かったんです。舞台が止まることなく一つの場所から別の場所へと移動できるように、巧妙なデザインを編み出す必要がありました。そのためには舞台装置だけではなく、映像や照明、音響などすべてのセクションが一体となって機能することが大事であると感じ、アイデアを盛り込んだストーリーボードをたくさん作成したのを覚えています。さらに私はビジュアルにこだわりがあるので、一作品の中で1950年代と1980年代という2つの時代を扱えるのはチャレンジングであり、喜びでもありました。あとは、何といってもデロリアン!どう登場させ、最大の見せ場であるクライマックスのシーンまでうまく機能させるか。それが一番のプライオリティでした。
これまでも映画の舞台化はたくさん手掛けてきましたが、これほど大勢のファンを持つ作品は初めてで。それも皆さん、とても熱心なんですよね。実はこんなことがありました。私が本格的にデザインを手掛けるようになった2019年の1月に、プロデューサーの発案で宣伝用の写真を撮ることになったんです。早速衣裳をそろえ、マーティ役の俳優に着せてみると、すごく良い感じに見えました。しかし、一週間後にSNS上で写真が公開されるやいなや、「スニーカーがおかしい」とか「ダウンジャケットの赤みが強い」とか文字通り徹底的に批判されてしまった。そこで初めて、細かいところまで正確に再現しなければダメだと気付かされたんです。良い教訓を得たおかげで、今、舞台上でキャストがまとっている衣裳はまさに観客が見たいものになっている自信があります。
もちろんデロリアンも細部にまでこだわっています。外観など基本的なデザインは私が担当し、内部にある魔法のような仕掛けはエンジニアたちと緊密に協力し合って作り上げました。二人が座れるスペースを保ちながら、1インチおきに照明や音響スピーカー、特殊効果のモチーフが詰め込まれていて、躍動感たっぷりのデロリアンをお届けしています。最初にデロリアンを設計した際、私は実現したいことのリストを作成したんです。車輪が回転するとか、車体が傾けられるとか、内部もリアルに仕上げるとか、ドクが乗って踊れるくらい頑丈にするとか......全部で15項目くらいあったかな。その膨大なリストを見てプロデューサーもエンジニアも「全部は無理だ」と言うだろう思っていたんですが――実際、映像デザイナーのフィン・ロスには「さすがにやりすぎ」と言われたっけ(笑)――、なんと全部実現できてしまった。本当に素晴らしい!関わったみんながポジティブな気持ちでそれぞれの仕事をやり遂げてくれた結果で、ある意味、クレイジーな特殊効果のコラボレーションだったといえます。
コラボレーションといえば、四季チームとの仕事も最高でした。私はデザインを手掛ける際、常に模型やストーリーボードをたくさん作ります。それらを囲んでチーム全員で話し合い、問題点を見つけ、うまくいかない場合はそのアイデアは捨てて、また新しいアイデアを思いつく。デザインが形になるまでに途方もない時間と労力がかかるんです。でもその作業がとても大事で、私自身やりがいを感じているところでもあります。そして四季の皆さんもまた、非常に組織的でしっかりと準備をし、公演に臨んでくださった。さらに私たちが新しいアイデアや急な変更を申し出ても、より良い舞台を作ろうとする私たちの意図をくみ取り、願いをすべて叶えてくれました。逆に「ほかにできることはないか?」と聞かれたことも。おかげでたくさん欲が出てしまいました(笑)。仕事の質も素晴らしいと言わざるを得ず、舞台装置も衣裳も本当に素晴らしく作ってくださった。客席に入れば分かると思いますが、そこから見る景色はプロダクション史上最高の出来です。これぞ間違いなく『BTTF』の旗艦公演!日本の皆さんにはぜひエネルギーとスピードに満ちた本作を、ワクワク感を存分に味わいつつ楽しんでもらいたいです。時速88マイルのスピードに振り落とされないように、シートベルトをしっかりと締めてショーをご覧くださいね。
文=兵藤あおみ
Copyright SHIKI THEATRE COMPANY. 当サイトの内容一切の無断転載、使用を禁じます。